恩返しの恩返し【紫】 ページ10
「ごっそーさん! あー腹いっぱいんなったわー」
暖簾をくぐると、濃い藍色の空
夏の名残は残しているけれど、
この時間になると外の空気は澄み渡っていたーー…
大きく夜空に伸びをするTシャツの背中、頭に巻いたままのタオル…
私は自分の服に染みついた煙の匂いを感じながら
この人が、きちんと奢られてくれたことに感謝をする。
…恩返しは、返してきちんと清算すべきだった。
私たちはまだ、0に戻れる関係性だった。
「…この間は、改めてありがとうございました」
…会の終盤、理由も言わず途端に口数の減った私のせいで
せっかくの焼きそばの味を損ねてしまったのではないだろうかと、申し訳なく思いながら…
私はこの会の趣旨を改めて確認するように頭を下げた。
「ん…ほんならもうちょびっとだけ付き合わへん?」
言ったそばからたちまち彼は目の前のコンビニに走る、瞬発力というのだろうか、
走り始めの第一歩のバネがしなやかで私はその動きをつい目で追ってしまう
その場に立ち尽くして待っているとガラスの自動ドアが開く、その中から両手にアイスをぶら下げてこちらへやってくる姿…
「ほれ、恩返しの恩返し」
「ーー…」
「なんや不満あるんかいな、こういう時はガリガリ君やって相場は決まっとるやろ」
戸惑う私に水色のそれを差し出す、覗く八重歯が無駄に爽やかで
“家このへんやろ? 送ってくわ”と、固辞する私を無視して方角だけ確認し
アイスを齧りながら夜道をずんずんと歩き始めるーー…
「ーー…」
…この人はなんなんだろう
私がどんなに戸惑っても
急に饒舌に話し始めてもいきなり黙っても一切それには動じず
あまりにもあっけらかんと健康的すぎて
古ぼけた歌謡曲の鼻歌を歌い
たまに見えないサッカーボールを蹴るようにステップを踏みながら、私の数歩先を勝手に歩くーー…
…
「…や、さっきん話まだ途中やったからな」
「え…?」
それは、しゃり、と口の中でソーダ味のアイスが溶けた瞬間だった。
マイペースに歩く背中をとぼとぼと追っていた私に
「マズローのん、欲求5段階説言うたやろ、まだ4つしか言うてへんかったから」
彼が急に、真面目に話し始めたのは
ああ、もう秋の虫が鳴き始めたのだと街灯の下、その気配に気づいた瞬間だったーー…
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たまご(プロフ) - okmrernさん» あ、なんか途中で送信しちゃったごめんなさい…!引き続きよろしくお願いします! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - okmrernさん» okmrernさま、お久しぶりですありがとうございます!ここまでされても私はこの村上信五とつきあいたい (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさま、お久しぶりですありがとうございます!ラスボスは一番そばにいるということでひとつ…! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぐふ。さん» ぐふ。さま、初めてのコメントうれしいですー!!信五最強説です…!そしてビリヤード!素敵ですねそれ…ただ友達がいる設定にしてしまったなあの店員さん…… (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ゆき姉さん» ゆきえさん!コメントありがとうございます嬉しい!ほんとしんどい話でごめんなさいね…いつもありがとうございます! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たまご | 作成日時:2019年8月18日 23時