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さよならのシーン【緑】14 ページ6

…普通の恋だったけれど、やっぱりたくさんの普通じゃないことはあった。



“A最近来ないね。忙しい?”


キョンちゃんたちからは、たまにLINEが入った

彼と付き合うようになってあの店には私は寄り付かなくなった。



…それは、彼と過ごせる貴重な時間を確保するためでもあったし、

いくら仲間内とはいえ容易に彼らに彼とのことを話す訳にはいかないという理由もあった。



外は歩けない


浴衣を着て手を繋いで温泉街を歩いたりとか

夜中に思いついて一緒にレイトショーを観に行ったりだとか


恋人同士が当たり前にすることは夢物語のできごとのようだったし




“大倉忠義”

“大倉くん”


…最初の頃、彼と会えず眠れない夜私はついこっそりと、何度もそんな言葉で検索をかけた


私の知らない彼

居場所を築き

たくさんの人に愛されている彼の欠片を見るのは誇らしさと寂しさを同時に私にもたらし



彼が褒められているとうれしくなったし

彼が理不尽に責められていると憤りを覚えたし


…ただ、そのどれも私の存在など一切関与しない場所で繰り広げられるもので


…ベッドの上でただ芋虫のように転がりながら息を潜めてスマホの画面をじっとスクロールしている自分が、途轍もなく嫌になることもあった。




「…A?」


「や…ごめん なんか…キラキラしてて眩しかったから」


彼があまりに美しいから

私は時々どうしようもなく泣きそうになる


こんな、世界中に二人っきりみたいなのに


…寂しくて


きっとこの時間は永遠には続かないのだろうと


掌の中に掴んだ筈なのに、掴みきれないほど大きくて



いつ零れ落ちていくかわからない人ーー…





…だから



「なあ、一緒に住まへん?」


「え…?」


「いや…前から考えてたねんけど」


「…そうなの?」


「ん…うちんマンション越してくればもっと一緒おれるし、俺も安心やから」




…言われたとき、私はうれしかった、窓から身を乗り出して世界中に叫びたいほどに


頑丈そうな鍵をもらって自分のキーケースにくっつけた時

一人暮らしを始めた時に買った家電は全部処分して、彼の大きな冷蔵庫に買ってきたビールを詰め込んだ時



“ただいまぁ”


彼がそう言って、自分も暮らすこの部屋に帰ってくる度にーー…

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Aki(プロフ) - 初めまして。たまごさんの作品には芯と真があって、心を抉られながらもその毒性ある棘を触ってしまいます。素敵な物語、されど味わったことのある表現できなかった過去の感情が溢れてきて、気持ちの整理が少々追いつきませんが、素敵な作品をありがとうございます。 (2019年10月24日 1時) (レス) id: 25a44a4956 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 『さよならのシーン』 うまく言えないけれど、切なさで胸がドキドキして泣きそうでした…素敵なお話ありがとうございました♪ (2019年10月23日 3時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - つい一気読みしてしまいました。切なくて胸がいっぱいになりました。たまごさんの作品はいつも心にスッっと響くものばかりで感動しています。次の作品も楽しみにしています。 (2019年10月23日 1時) (レス) id: cfcb601f80 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たまご | 作成日時:2019年10月22日 23時

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