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さよならのシーン【緑】24 ページ16

「ーー…」



…彼女は、揺れていた


普段やったら立ったまま突っかけて履くようなスニーカーをわざわざ座って靴紐を解いてからまた結びながら



きっと彼女はその時間を利用して最後に言うべき言葉を必死に考えていた



「ーー…」


…立ち上がりその時間がきて勢いよく振り返ったのにーー…




僅かに開いた唇は


言葉を探して震えていた




ーー…



「…A」



「ーー…ねえ、私たち」



「ーー…」



「…どこかで間違えたのかな」




ーー…




ーー…俺は想い出す、彼女との出会いを、初めて彼女を意識したあの雨の日のことを


あん時のふわふわと浮ついた心を、初めて抱いた日のわけのわからん衝動を


付き合いたての甘ったるい時間を、家に帰ると聞こえる玄関まで走ってくる彼女の小さな足音を


…閉じ込めてしまいたいくらいに彼女に甘えきっていたことを


彼女が俺を置いて歩き始めた日の寂しさを、投げたスマホが壁にぶつかり床に落ちた時の音を


そん後の苦さを、それでも誤魔化しながら続けようとしていた愚かな二人を、足掻いた日々を



必死に、生きていたことを、必死に、生きていることを


今、玄関先で白いスニーカーを履いて俺をまっすぐに見上げる、彼女の美しさをーー…




ーー…




「…間違ってへんよ」



「ーー…」



「…俺たちはなんも、間違ってなかった」



なんも嘘にはならへんし、きっといつに戻ったとしてもまた同じ選択をするだろう


…俺は彼女がおったこの何年かを抱えて、ひとりで、



これからも生きていくーー…





「…ありがとう」



彼女は最後の言葉としてそう言って


きちんと、頭を下げた



高く結んだ彼女の髪の毛がそれを追いかけるように跳ねて


…俺はそれをまた “ええな” と思った





ーー…



そして俺はその夜



こんな夢を見た






…確かにあった



幸せな夢を。

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Aki(プロフ) - 初めまして。たまごさんの作品には芯と真があって、心を抉られながらもその毒性ある棘を触ってしまいます。素敵な物語、されど味わったことのある表現できなかった過去の感情が溢れてきて、気持ちの整理が少々追いつきませんが、素敵な作品をありがとうございます。 (2019年10月24日 1時) (レス) id: 25a44a4956 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 『さよならのシーン』 うまく言えないけれど、切なさで胸がドキドキして泣きそうでした…素敵なお話ありがとうございました♪ (2019年10月23日 3時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - つい一気読みしてしまいました。切なくて胸がいっぱいになりました。たまごさんの作品はいつも心にスッっと響くものばかりで感動しています。次の作品も楽しみにしています。 (2019年10月23日 1時) (レス) id: cfcb601f80 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たまご | 作成日時:2019年10月22日 23時

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