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さよならのシーン【緑】23 ページ15

…彼女は勝手知ったるキッチンでお湯を沸かし、“この茶葉は残していくからたまには飲んでね”と言いながら、俺に熱い紅茶を淹れた。


ダイニングテーブルに向かい合って座り

カップを両手で持って息を吹きかける彼女を俺はじっと見ていた。



「…キョンちゃんね」


「ん…?」



「この間久しぶりに連絡きて、2月に子どもが生まれるみたい」


「ああ、せなんや」



「うん。…登れるといいね、富士山」


「んー? なんやっけそれ」



「…ほら、いつか“死ぬまでに行きたい場所”の話したの覚えてない? キョンちゃん、富士山の山頂だって。子どもと一緒に登るのが夢だって」


「あー…? なんか話した気ぃするわあ。お前どこやった?」


「私? トルコだったかな。大倉くんは特にないって言ってたよ」


「まあ旅先でもホテルでだらだらしとるほうが好きやもんなあ俺」


「…うん、変わってないね、ふふふ」



…別れることが決まってから、彼女は俺をまた“大倉くん”と呼ぶようになった


…まるで、付き合う前の二人に戻ったかのように。




「…そおいやアツシくん何しとるんやろなあ」


「連絡取ってないの?」



「んー、俺もあの店行かんようになってずいぶん経つからなあ。もともと約束して飲んでたわけやないし」


「…まああの人のことだから適当に元気にやってそうだけどね」


「ははは、せやな」



…なんにもなかったように俺たちは穏やかに笑いながら話をした、昔みたいに



やけど


目の前の彼女はあの頃より6年分 歳を取って



…もう、あの頃見せたような不安定さや卑屈さは、どこにもなかった





「…じゃあ、そろそろ行こうかな私、顔も見れたし」


「あ…そんままでええよ、俺やるわ」



カップを片付けようとする彼女を俺は制す


…しばらくは、ひとりで洗い物をすんのにもダメージ受けそうやなと思ってちょっと笑う



俺は…いつも彼女がしてくれたように彼女を玄関まで送る


ホタルイカの沖漬けを詰め込んだ鞄を横に置いて

座って白いスニーカーを履く小さな背中を見る






「ーー…」



…彼女が立ち上がり、振り返った。

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Aki(プロフ) - 初めまして。たまごさんの作品には芯と真があって、心を抉られながらもその毒性ある棘を触ってしまいます。素敵な物語、されど味わったことのある表現できなかった過去の感情が溢れてきて、気持ちの整理が少々追いつきませんが、素敵な作品をありがとうございます。 (2019年10月24日 1時) (レス) id: 25a44a4956 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 『さよならのシーン』 うまく言えないけれど、切なさで胸がドキドキして泣きそうでした…素敵なお話ありがとうございました♪ (2019年10月23日 3時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - つい一気読みしてしまいました。切なくて胸がいっぱいになりました。たまごさんの作品はいつも心にスッっと響くものばかりで感動しています。次の作品も楽しみにしています。 (2019年10月23日 1時) (レス) id: cfcb601f80 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たまご | 作成日時:2019年10月22日 23時

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