さよならのシーン【緑】22 ページ14
…それからの日々は
格闘の時間だった
なんとかやり直す道はないのかと、お互いを尊重して歩み寄りながら
けれど何かを補おうとすれば、また別の何かに歪みが出ることが続き
愛情からくる互いへの遠慮は、また二人の間に隙間を作る
それはもう安心して笑い合えるような関係とは
…ずいぶん、遠いところまで来てしまったような気がした
…結婚、できればまた何か違ったかな
子どもが間にいたりすれば
一緒にいることの意味がまた変わったりしたのかな
…誰かにこの関係を相談することができれば
二人っきりの世界じゃなくて
外を一緒に散歩したり、みんなの中で彼氏彼女として認められれば私の身勝手な承認欲求も別の形で解消されたりしたのかな
…ううん
…私は秋田からひとりで出てきて、脚本家になりたくて
地元に残れと言う親の反対を押し切って泣きながら新幹線の窓から田んぼに沈む夕日を眺めていた時も
いつかこんな気持ちを、脚本に書きたいと思ったような人間でーー…
誰かのために自分のすべてを捧げることのできる人間にしか
人を、幸せにすることはできないのかもしれないーー…
「…もう、限界だね」
「ん…」
「…ごめんね、疲れさせてばっかりで」
…彼は俯いたまま静かに、首を振った
茶色い髪の毛が、空中でふわりと舞った
…いつか失うことを恐れた、あの雪の日と同じようにそれは美しく
…私はやっぱり、いつかこの気持ちを文章にするんだろうなと思った
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Aki(プロフ) - 初めまして。たまごさんの作品には芯と真があって、心を抉られながらもその毒性ある棘を触ってしまいます。素敵な物語、されど味わったことのある表現できなかった過去の感情が溢れてきて、気持ちの整理が少々追いつきませんが、素敵な作品をありがとうございます。 (2019年10月24日 1時) (レス) id: 25a44a4956 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 『さよならのシーン』 うまく言えないけれど、切なさで胸がドキドキして泣きそうでした…素敵なお話ありがとうございました♪ (2019年10月23日 3時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - つい一気読みしてしまいました。切なくて胸がいっぱいになりました。たまごさんの作品はいつも心にスッっと響くものばかりで感動しています。次の作品も楽しみにしています。 (2019年10月23日 1時) (レス) id: cfcb601f80 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たまご | 作成日時:2019年10月22日 23時