76話 ページ38
何となく、今言うべきなのではないかと、頭をよぎった。
なんの脈略もないけど。
突然過ぎることになるけど。
いま、このとき、このばしょで。
彼と手を繋ぎ、美しい光を眺めながら。
「リヴァイ兵長」
声が震えた。
心臓が急に激しく動き出し、暑くないのにじわりと背中が汗で服と張り付く。
互いの視線が交じり合った。彼は僕の様子に気が付いたのか、悩む様に眉を潜める。
そして何となく、兵長から視線を外して、絡み合った手を眺めた。
触れ合う皮膚は暖かく、生命の共有でもいているようだ。
「伝えたい事があるんですけど、なんていうか…えっと、返事は要らないので、その、聞いててくれますか…?」
そう、返事なんていらないのだ。
これからの僕に、良かれ悪かれ彼の答えは貰わない方がいい。
兵長は静かに、握りあってた手に力を込めた。それが合図のように感じて、僕は一呼吸置いてから、
「好きです」
と言葉にした。
彼の手が、少し揺れた気がした。
でもそんな些細な変化に思いを馳せる余裕はなく、そのまま震えた声で続ける。
「好きなんです」
きっと彼も、僕が貴方のことが好きな事ぐらい気付いてる筈だ。
でもこの好意を口にした事はなくて、それはとても、不安な事だった。
新兵器の開発に目処が立ってきた、訓練も既に実践に一番近いことをしている。
壁外調査が近づいていた。
だからこそ、はやく、はやく伝えて、解って欲しかったんだ。
「今こうやって過ごす時間も、今までの貴方との時間も、全部が全部大切なものなんです」
きっと一生忘れられない。
この時間と思い出は、僕の体に染み付いて、拭い去ることが出来ないだろう。
「全部、好きです」
いま彼は、どんな顔をしてるんだろう。僕にはそれを確認する勇気はない。
驚いてるかもしれないし、いつもと変わらないかもしれない。もしかしたら、聞きたくなかったという表情かもしれない。
不意に空いていた手が僕の頬を撫でた。
握っている手と同じ、暖かく、逞しい、彼の手のひら。
握った手はさらに強く。
頬に添えられた手は優しく。
上を向かせる様に顎を持ち上げられ、口付けを交わした。
返事はいらないと言った。
確かに彼は何も言わない。
でも、今のこの触れるだけのキスが
僕を受け止めてくれたようで、
受け入れてくれたようで、
どうしようもなく愛おしかった。
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やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます、絵を褒めてもらえるのは嬉しいです!! かっこいいと言われて主人公くんも喜んでるはず!笑 (2018年7月10日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Soleil(プロフ) - イラスト拝見させて頂いたのですが、めっちゃかっこいいですね!絵がとてもお上手ですね (2018年7月10日 14時) (レス) id: bc0cb92646 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Rainさん» 嬉しいお言葉たくさんありがとうございます〜!マイペースに頑張っていくので宜しくお願いします!! (2018年7月2日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Rain - すっごく面白いです!!これからも頑張って下さい!応援してまーす!更新楽しみにしてます! (2018年7月1日 22時) (レス) id: e08e47c2f9 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます。コツコツ書いていくので今後とも宜しくお願いします(^O^) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やし野 | 作成日時:2018年3月31日 23時