64話 ページ25
「母親が居たんじゃなかったのか」
「ん?」
「2回目に会ったときに言ってたろ」
「ぁあ、えっと、生みの親じゃないんですけど、大好きな人が居たんです。多分僕を買った人だと思うんですけど。…あの生活が満足出来てたのはその人の存在が大きくて……」
言葉が詰まってしまった。
まだ、人に話すには心が追いついてないみたいだ。母親のことを思い出すと、胸が苦しい。
「…………話せるかなって、思ったんですけど、やっぱり地下街の頃の話は気分がのりません、孤児院の頃の話にしてもいいですか?」
「あぁ」
僕は出来る限り正確に、思い出しながら孤児院にいた頃の事を話した。
過去の思い出を語るのは少し難しくて、順番がばらばらになったりして大変だ。
それでも彼は目を閉じながら、耳を傾けてくれる。
「実は僕、問題児だったんですよ」
その言葉に兵長はゆっくりと瞼を持ち上げる。
「お前が?」
「はい」
「想像出来ねぇな、何やらかしてたんだ」
「やらかす、ってほどではないんですけど。院に入るまでまともに人と関わって来なかったんです、母親と、もう1人しか。だからきっと、モラルが欠けていたんです。友達という概念もあの頃はなかった。人の気持ちを読み取れなかったし、きっと異常な行動とかも、してたと思うんですよ」
今思い出してみるととても面倒な子供だったなと、自分に苦笑いしたくなる。
「でもね、そんな僕にずっと院長は手を焼いてくれました。とても優しくて、厳しくて、慈愛に満ちた人です」
「シーナでそういう奴が居るのは珍しいな」
「珍しいんですか?」
「ああ、大概のやつが豚箱にでもぶち込みたくなる、自分を高貴な人間だと思い込んでる奴が殆どだ」
「え」
「意外か?」
「……そうですね、シーナの人と言えば院長と、ほかの先生、同じ子供たちだったので、そういう人達がたくさんいるとは思ってませんでした」
「ここより残念な奴らが多いと思っときゃいい」
「ふむ」
こんなに話してるのはいつぶりだろう。
でも、じわじわとまた眠気が襲ってくる。昼間からずっと寝ていたはずなのに、僕の体はまだ睡眠を要求しているようだ。
「眠いか」
眠いということが表情に出てしまっていただろうか。
ぽん、ぽん。と頭を撫でられる。
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やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます、絵を褒めてもらえるのは嬉しいです!! かっこいいと言われて主人公くんも喜んでるはず!笑 (2018年7月10日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Soleil(プロフ) - イラスト拝見させて頂いたのですが、めっちゃかっこいいですね!絵がとてもお上手ですね (2018年7月10日 14時) (レス) id: bc0cb92646 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Rainさん» 嬉しいお言葉たくさんありがとうございます〜!マイペースに頑張っていくので宜しくお願いします!! (2018年7月2日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Rain - すっごく面白いです!!これからも頑張って下さい!応援してまーす!更新楽しみにしてます! (2018年7月1日 22時) (レス) id: e08e47c2f9 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます。コツコツ書いていくので今後とも宜しくお願いします(^O^) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やし野 | 作成日時:2018年3月31日 23時