53話 ページ13
僕は兵長の肩に手を置き、前に彼がしてくれたように、触れるだけだった唇を啄んでみた。
けれども途端に恥ずかしくなって、
ぽん！
と頭の中から外に弾けた感覚になると、思わず唇を離した。
「ご、ごめんなさい…！」
別に悪い事をしたつもりではないが、反射的に謝って、片手で顔を隠すように俯く。
何を浮かれてたのか、してしまった事に恥ずかしくて、恥ずかしくて。
「A」
顔を覆っていた手を取られる。
やめてくれ、今本当に彼の顔が見られない。
「すみません、あの」
「A」
優しく名前を呼んでくれる。
体を離そうとする僕を、手を掴んだ反対の手でまた引き寄せる。
「A、もう一度」
ついに頭が破裂したかと思った。
もう一度だなんて、彼の顔さえ見れないのに無理だ。
行動に起こせない僕をじっと見詰めていた兵長が、僕の手首から手を離し、優しく頬を持ち上げて再び唇を重ねた。
今度は彼から、優しく唇を食んでくる。
それが嬉しくて、おずおずと自分からも彼の唇を啄んだ。
柔らかい唇の感触、暖かい吐息、添えられる手の優しさに、目眩を感じる。
このひとときで、僕の心は満ちていく。
カランと空いていた穴が、暖かな何かで埋められていく。
いっそこのまま、時間さえ止まればいいと思う程に。
＊＊＊
ささやかな時間はあっという間で、あのまま少し世間話をした後、就寝時間が迫っていたからと兵長の部屋をあとにした。
自室のベッドの上で、僕は窓から差し込む月明かりに照らされた天井をぼんやり眺めている。
自分専用の部屋だが、ベッドは4つ。僕はそのうちの一つ、2段目の上でいつも寝ている。他のベッドは物置のようになっており、本や服、業務用の道具などでいっぱいだ。
調査兵団がここに来てから数日、自分の生活は大きく変わった。
当番でやる事も増えるし、向こうの宿舎の点検。
1番大きいのは壁外調査への参加だ。
のんびりした生活が、忙しい生活に変わり、大変だけど、楽しい。
でももしかしたら、その生活が、次の壁外調査以降なくなるかもしれない。
そりゃあ、死ぬかもしれないから。
怖い、という感情はない。
死ぬ時は死んでしまうだろうし、今更死にたくないなんて思えない。
幼き頃に沢山命を奪ってきたのだ、思う資格がないのだ。
いや、一旦この事について考えるのはやめよう。
止まらなくなってしまう。
また明日も訓練だ。
今日はもう寝てしまおうと思う。
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やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます､絵を褒めてもらえるのは嬉しいです!! かっこいいと言われて主人公くんも喜んでるはず!笑 (2018年7月10日 17時) (
レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Soleil(プロフ) - イラスト拝見させて頂いたのですが、めっちゃかっこいいですね！絵がとてもお上手ですね (2018年7月10日 14時) (レス) id: bc0cb92646 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Rainさん» 嬉しいお言葉たくさんありがとうございます〜！マイペースに頑張っていくので宜しくお願いします！！ (2018年7月2日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Rain - すっごく面白いです！！これからも頑張って下さい！応援してまーす！更新楽しみにしてます！ (2018年7月1日 22時) (レス) id: e08e47c2f9 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます。コツコツ書いていくので今後とも宜しくお願いします(^O^) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やし野 | 作成日時：2018年3月31日 23時
