そして療養 ページ9
「はい、全身打撲ですね。」
ベッドに寝かされたAに、しのぶがいい笑顔で言った。
「この状態で動き回っていたと聞きましたが、何を考えているのですか?」
(ひいいいいい)
しのぶが青筋を立てている。
そして敬語だ。
未だかつて見ぬしのぶの激怒。
Aは体を縮こまらせた。
『だって、みんな重症だったし・・・私がしっかりしなきゃって・・・』
蜜璃も時透も、まだ目を覚さないと聞く。
あの時長に挨拶ができたのはAだけなのだ。
「Aも十分重症なの!」
しのぶはくどくど説いて聞かせる。
「責任感の強いAのことだもの。気になったのはわかるわよ。でもね、優先順位というものがあるでしょう?あなたの怪我が悪化したら、守れるものも守れなくなるかもしれないの。」
『はい・・・』
しゅんと眉を下げるA。
はあ、としのぶはため息をつく。
「頼むから、しばらく大人しくしていてね。」
Aの布団をぽんぽんと叩いて、病室を出ていった。
(しかし、暇だ・・・)
きつめに布団を被せられているので、動くにも動きづらい。
というか、体中が鈍く痛くて動けない。
里では疲れているとしても、普通の動きはできたのだが。
やはり気を張っていたからなのだろう。
ぼんやり天井を眺めるA。
少し開けてあった窓から、一羽の鴉が舞い込んできた。
「Aさん、里での戦いについてお伺いしたいのですが宜しいですか?」
『え・・・あ、はい!もちろんです!』
こんなに流暢に話す鎹鴉は初めて見た。
お館様の特別な鴉なのだろうか。
Aは窓の桟に止まった鴉を上目遣いで見上げる。
『上弦の鬼についてお話すれば良いのですか?』
「いえ、そうではなく」
戦いの最中、Aに「痣」が出ていたらしい。
そのことについてわかることを教えてほしいと言われた。
『痣、ですか・・・』
「戦闘時、いつもと違うことはありませんでしたか。」
考え込むA。
あることに思い当たって、あ、と声を出した。
『そういえば鬼の頸を切った時、ぐっと体が熱くなりました。ほんの一瞬でしたが。』
鴉はほう、と首を傾げた。
「詳しくお聞きしても?」
『ここでやらなきゃって思ったら、心臓がドクンって脈打って・・・それで、ガッて!』
鴉が目をぱちぱちさせた。
普通の鴉の声が病室に響く。
『申し訳ありません。短い時間だったので、詳しいことはわからないです。』
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ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひかる | 作成日時:2024年3月9日 9時