鬼のいない世界で ページ44
「Aの鮭大根は、神崎のと同じ味だ。姉と慕っていたから、料理も教わっていたのかも知らない。」
「そうなんですね。」
冨岡は握っていた左手を開いた。
水色の小さなお守り袋が手のひらに乗っていた。
冨岡の似顔絵の刺繍がよくできている。
「お守り袋ですか?義勇さんですね!すごいなあ。」
歓声を上げた後、炭治郎は少し罰が悪くなった。
「あ、もしかして・・・」
思った通り、Aに贈られたそうだ。
最後の戦いで破れてしまったのを、アオイが直してくれたのだという。
「中にAの字で、手紙があった。幸せに生きてほしいと。」
炭治郎は息を呑む。
(そうだよな。Aは自分が傍らにいられなくとも、義勇さんに幸せになってほしいと思うはず。でも、でも・・・)
Aと冨岡が並んで歩いているところは、側から見ても似合いの一対で。
今の冨岡はまるで、片方の翼を失くしてしまったみたいだ。
「「Aは、」」
声が重なってしまった。
炭治郎は口を噤んで続きを促す。
「何故だろうか。Aだけはいつまでも、側にいてくれる気がしていた。いついなくなってもおかしくないと、わかっている筈だったのに。」
冨岡は一息に続けた。
「Aはいなくならないと・・・Aだけは。」
(義勇さん・・・)
冨岡が自分で整理をつけなければどうにもならないことなのかもしれない。
だけれどもなんとか、Aが願ったように、元気になってほしかった。
「生きていこうと思った。Aがそう望むなら。」
だが・・・と、冨岡が炭治郎の方を向いた。
「なかなか、割り切れないものだな。」
あまり感情を表に出さない冨岡が、涙を流して笑っていた。
深く悲しみ打ちのめされながら、それでも前を向こうと。
少年のように屈託無い笑顔に、Aが被って見える。
よかった。Aはいなくなってなどいない。
まだ冨岡の側にいて、守ってくれているのだ。
「Aは義勇さんといられて、幸せだったと思います。」
そう言って、炭治郎も笑い返した。
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ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひかる | 作成日時:2024年3月9日 9時