ありがとう ページ43
(幸せになってほしいなぁ。)
Aの師範は、繊細で、不器用で、とっても優しい人だから。
「すまない。すまない・・・守れなかった。」
冨岡がぎゅっと体を近づけた。
小刻みに肩が揺れていた。
(違うの、師範。違うんだよ。)
謝罪なんて少しも欲しくない。
(なんて言えばいいのかな。ああ、でももう時間がないみたい。)
せめて、最後は笑顔で。
『師範』
掠れた小さな声で呼ぶ。
冨岡が体を起こす。
唇を噛みしめていた。
『師範、ありが・・・と・・・』
「A！」
Aは微笑む。
視界が光に包まれていく。
最後に映った冨岡が、涙を溢したまま口角をあげた。
・・・そうだ、わかった。
Aの気持ちを言葉にしたら。
「貴方に出会えた私はきっと、世界で一番幸せでした。」
「義勇さん！！」
桜ももう満開だ。
朝から晴天で、少し風が冷たい日だった。
鬼殺隊員たち墓の前でうろうろしている冨岡を見つけ、炭治郎は手を振った。
後ろから禰󠄀豆子、善逸、伊之助も走って来る。
「Aの・・・お墓参りですか？」
「ああ。」
淡く微笑む冨岡。
なんとも言えない気持ちになって、炭治郎は眉根を寄せた。
「こっちです。」
そう言って歩き始める。
後ろから冨岡がてちてちとついて来る。
左右の墓を見回しながら、感傷に浸っているのがわかった。
(だけど・・・うん。お元気そうでよかった。)
三ヶ月前の決戦の後、冨岡は抜け殻のように動かなくなった。
Aの髪飾りをじっと見つめて。
こうしてここに来ているということは、何か心境の変化があったのだろう。
「Aの墓を見て、Aを思い出せる自信がなかった。」
炭治郎の心を見透かしたように、冨岡がぽつりと言った。
気づくとAの墓の目の前まで来ていた。
先日炭治郎たちが供えた花が、まだ綺麗に咲いている。
「なんと言えばいいのだろうな。こんな時は。」
「え？」
「Aじゃない。」
「そうですね。」
「花見に行こうと言っていたんだ。桜が咲いたら。」
「そうですか。」
「何も伝えられていなかった。」
堪えきれなくなった言葉が溢れるように、ぽつりぽつりと冨岡は話し続けた。
隣に立った炭治郎は、ただ頷く。
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ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (
レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひかる | 作成日時：2024年3月9日 9時
