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あの日のことを ページ30

『師範・・・』

よかった。師範がいた。

冨岡は少し視線を彷徨わせた後、口を開いた。

「怖い夢でも見たのか。」

コクリと頷く。

「・・・そうか。」

冨岡は驚いたような表情を見せた。


「久しぶりだな。」


そう言って、冨岡はAを引き寄せた。

優しく抱きしめて小さい子供をあやすようにそっと背中を撫でる。

「Aが鬼殺隊に入ってからは、見なくなったのかと思っていた。」

『見ていませんでしたよ。これが初めてです。』

忙しくて考えられなかっただけなのだろうか。

「任務が無いのも考えものだな。」

Aは冨岡に身を預けた。

(よかった。生きてる。)


小さい頃からときどき見るのは優しい夢だ。

鬼の襲撃さえなければあったはずの出来事。

夢から覚めた時、自分が一人だと感じてしまう。

だからAは、優しい夢が苦手だった。


思い出すのだ。

家の中を見た瞬間にシンと静まり返った心も、キンと体の芯が冷える感触も。


「A」

冨岡が、体を強張らせたAの名を呼んだ。

ぽんぽんと背中を叩く。

Aの冨岡の背中に回した手から力が抜けた。


二人並んで熱いお茶を冷ます。

冨岡がぽつりと言った。

「明日は食堂に行こうか。」

Aは目を瞬かせる。

それからふふっと笑った。

口下手な冨岡なりに励まそうとしてくれているのだ。

冨岡はそこにいてくれるだけで、十分救われるのに。

『楽しみです。』


「花見もだな。桜が咲いたら。」


え、と振り向く。

「そう言っていただろう。」

忘れたのか、と目が問いかける。

『忘れるわけがないですよ。』

ずっと楽しみにしている。

これまで心が折れなかったのはそのおかげだ。

『でも、師範は覚えていないと思っていました。』

「忘れるわけがない。」

冨岡はそう言って、ふっと笑った。



あれから数日。

Aは同じ夢を見ることもなく平和に過ごしている。

Aの目の前では今、不死川と冨岡が激しい手合わせをしていた。

柱稽古の一環で柱同士で手合わせをする時にはAも見取り稽古をさせてもらうのだ。


不死川は冨岡とどうも反りが合わないらしい。

Aが聞いていない会話が引き合いに出されるので理解できない部分もあるが、とにかく冨岡は煽られている。

ちなみに、冨岡は無言である。


(ところで、あそこにいるのって・・・)


「水の呼吸 漆の型 雫波紋突き」

「風の呼吸 伍の型 木枯らし颪」

おはぎ事変→←優しい夢



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ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひかる | 作成日時:2024年3月9日 9時

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