私は何も ページ21
しかし、Aが聞いていないことを炭治郎が知っていたとは・・・。
師範のことを、本当は何も知らなかった。
Aはぎゅっと拳を握った。
全部教えてほしい、という訳にはいかないことはわかっている。
それでもやはり、悔しい。
(ああでも。)
『きっと炭治郎君だから、師範は話したくなったんだろうなぁ。』
炭治郎は隣に立って、悲しそうにAを見ていた。
『私はね、踏み込めないの。一歩踏み込む勇気がなくて、気を利かせたつもりで何も言えなくて。結局、何も知らないまま・・・』
ズウウンと凹むA。
そうかな。
炭治郎が優しく言う。
「一番近くで義勇さんを支えているのはAだからさ。」
え、という顔をして、炭治郎がキョロキョロあたりを見回す。
Aは炭治郎からかなり離れたところで耳を塞いでしゃがんでいた。
我ながらすごい早技だ。
炭治郎が近づいてくる。
顔が真っ赤になっている自覚がある。
『今、そういうのいらない・・・炭治郎君の優しさ、受け取れない・・・』
蚊の鳴くような声で言った。
「ええ!ああ、ごめんな!」
『イインダヨ、キニシナイデ・・・』
炭治郎が立派であればあるほど、自分が私欲に塗れた人間に思えてくる。
(というか、事実そうだし・・・)
もう、どうしよう。
「えっと・・・」
口ごもる炭治郎。
『教えてよ。』
「え?」
『師範の話、教えて。』
「それはできないよ。」
優しく、けれどきっぱり炭治郎は断る。
そりゃそうだ。
Aだって言ってみただけ。
それで教えてもらったって、嬉しくない。
『・・・あああああ』
両手で顔を覆って、深い深いため息をついた。
あわあわして二人を見守っていた蜜璃が、パンと手を叩いた。
「あ、あのね!Aちゃんから聞いてみるのはどうかしら!」
パッと振り向いた二人に見つめられ、蜜璃は頬を染める。
「冨岡さん、きっとAちゃんのことが大好きだし、ちゃんと聞いたら教えてくれると思うのよ!」
(確かに、そうだ。)
うじうじ悩む前に、真正面から聞いてみればいい。
Aは立ち上がってバッと蜜璃にお辞儀した。
『ありがとうございます蜜璃さん!私、ちゃんと聞いてみます!』
蜜璃も炭治郎も応援してくれた。
そうと決まれば蛇柱稽古だ。
全力でやって、早く合格をもらおう。
そして水柱邸に帰ろう。
意気込んで蛇柱邸に到着すると、初っ端から敵意剥き出しの伊黒に迎えられた。
104人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ひかる | 作成日時:2024年3月9日 9時