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昔の話 ページ11

『昔、同じようなことがありましたよね。』

突然甦った記憶。

あれは本当にあったことだろうか。

冨岡を窺い見る。

「ああ。この辺りだったか。」

何気ない調子で冨岡は言った。


「あの時は焦った。日が傾いていたからな。」



あれは確か、蝶屋敷に住むようになってまもなくのこと。

Aは蝶屋敷を抜け出してしまった。

理由は、両親の葬式で泣けなかったこと。

そしてそれをからかわれたこと。

いてもたってもいられなくなって飛び出して、ここで蹲っていたAを冨岡が迎えに来てくれた。


「帰るぞ。」


そう言われても動けなかった。

ぎゅっと膝を引き寄せる幼いA。

冨岡は手を差し伸べた。

差し出された手をきゅっと掴む。

戸惑った冨岡は隣にしゃがんだ。

「抱いた方がいいのか。」

『ううん。』

Aはバッと立ち上がる。

「偉いな。」

ポンポンと頭を撫でられる。

そのまま手を引かれて、Aは蝶屋敷に帰った。


『そうだ。しのぶさんに怒られたの、この間が初めてじゃなかった。』

里から戻ってきた後とは違う怒り方だった。

が、あの後蝶屋敷に戻ってから、顔を真っ赤にしたしのぶに猛烈に叱られた。

「心配したんだから。」

最後にはそう言って抱きしめてくれて。

どうして忘れていたのだろう。

こんなに幸せな、他愛ない思い出。



「俺も少し叱られたな。」

Aのひとりごとを拾って冨岡が言った。

『え?どうして師範が?』

「Aをからかった隊士と・・・喧嘩、になってしまって。」

目を丸くするA。

えへへっと笑った。


『その後も涙は出て来なかったけど、師範と一緒に暮らせることになって、本当に嬉しかったんです。』

黙っていた冨岡が、ぽつりと言った。

「いや、よく泣いていた。」

『えっ』

必死で記憶を探る。

「包丁で指を切った、足を滑らせて転んだと言ってはいつも泣いていた。」

『あ・・・』

かあっと頬が熱くなった。

『そんなことも、ありましたね・・・。』

「今思えば、両親を失くした悲しみをそうして癒していたのだろう。」

そうだ、Aが泣くたびに、冨岡は手を引いて散歩に連れ出してくれた。

ちょうど忙しい時期だっただろうに。

『ご迷惑をおかけして・・・』

言いかけたAを遮って、冨岡が言う。

「俺の為でもあった。」

はてな。

首を傾げるA。

「うちに来てくれてよかった。」

ふと立ち止まって、冨岡はAを振り向いた。

守るべきもの→←もう少し療養



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ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひかる | 作成日時:2024年3月9日 9時

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