検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:36,154 hit

ブーケンビリア ページ9

見られない風景が目の前を支配していた。その光景はとても綺麗で寂しいと思ってしまった。けど目を閉じれば辺りは一変した。

温かい空気と嗅ぎなれた洗剤の匂いと何気なく笑ってこちらを優しく見つめてくれている北山がいた。彼は手を振って、口パクでおいでと言っている。

自分が幻想を見てるのではなく、本当に北山が目の前にいると錯覚してしまうほど、藤ヶ谷の身体は彼を欲していた。

手を伸ばしても届かない。何度も何度も手を伸ばしても彼をこの手に納められない自分が惨めで藤ヶ谷の顔は、怒っているのか悲しいのかわからない複雑の顔になっていた。

  F「速く北山に会いたい……」

彼はそっと呟いた。その言葉はとても大罪もので愚かに思われるだろう。

けれど藤ヶ谷にとってはそれは夢で希望だった。今彼は知らないビルの屋上にいる。風は少し強く夏らしくない肌寒さがした。

そのビルは十階建てで、ここから落ちれば確実に死ねる高さだった。彼がここに立っている意味は他の人から見ればわかるだろう。

藤ヶ谷はフェンスを乗り越え数センチしかないコンクリートに立つ。強風が吹けばバランスを崩して落ちてしまうほど不安定だった。

藤ヶ谷は優雅に下を見た。その景色はとても迫力があり、下にいる人間がぼやけていた。

彼はそんな風景に怯えることなく笑っていた。意気地なしだった彼にこんな事が出来るのだろうか。けどそんな感情がわくほど藤ヶ谷には余裕が無かった。

ただ、心にいるのは北山の姿だけだった。

また手を伸ばす。

自分の幻想でしかない北山に手を伸ばす。

一歩踏み出せば届くような感覚がした。

藤ヶ谷はゆっくり、北山の方向に足を出し、その足に重心を乗せる。

いつもならその重心は地面が受け止める。

だが、彼の足元は空気しか無かった。

藤ヶ谷は重力に従って下に落ちる。

堕ちる。









藤ケ谷自身には落ちている感覚は無かった。

北山の元に向かうだけ。

まだ目を閉じると彼がいた。

彼は彼に縛られていた。

けどそれでいいと思えてしまう彼は本当に堕ちている。

救いようのない愚かな恋だった。

ただ彼は彼に触れたい。

重なりたい。

繋がりたい。

男の欲が彼を支配した。




もう、彼の恋心は純粋の域を超えていた。

泥に浸かった恋心。









目を覚ますとそこは見慣れた風景だった。そこは自分のベットで自分の部屋だ。

シオン→←ダリア



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (69 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
158人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。