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ずっと君を大好きだ ページ50

帰りはもちろん一緒だった。もう日は無くなり、街の外灯が眩しい光を放つ。二人で並んでいたが会話は一切なく月明かりが目立っていた。藤ヶ谷はただ俯いていて、北山はそんな彼を気遣うように顔を伺いながら歩いていた。北山は何かを思い出すかのように目を見開いて、藤ヶ谷の前に立つ。

  K「……藤ヶ谷、今までありがとうな。楽しかった」

藤ヶ谷は最後の言葉のようで辛かったが、精一杯の笑顔で北山に答える。

  F「俺も。北山を好きになってよかった。ありがっ、」

藤ヶ谷が今まで北山に伝えられなかった言葉を口にしようとした途端、大きな衝撃音とスリップ音が響いた。そちらに目を向けると緑色の大きなトラックがこちらに迫っていた。藤ヶ谷はすぐに視線を北山に戻し、彼の腕を掴み引っ張ろうとした。けれど北山は腕を掴まれた藤ヶ谷の手を振り払った。

その後、北山は少し強めに藤ヶ谷の肩を押した。押された衝撃で足がよろめき、藤ヶ谷は北山と手が届かない位置まで距離を離してしまった。「ヤバイ」と思った藤ヶ谷は無意識に足を踏み出すが、すぐそばまでトラックが来ていて、その時藤ヶ谷は間に合わないと思ってしまい鳥肌が立った。

今から死ぬというのに北山は笑っていて、藤ヶ谷の事を優しく見つめていた。その時間は止まっているようで長く感じた。けれどトラックが北山に触れると時間は再生されて北山はあっという間に壁に押し付けられた。藤ヶ谷はただ絶望しかなくて、隙間から流れてくる血のような液体を眺めることしか出来なかった。


お葬式は早々と終わってしまったと感じるほど藤ヶ谷の体内時計は止まっていた。恋人の死ぬところを見たのだから、失望するのも無理もないと思ったメンバーは虚ろな目で藤ヶ谷を見つめていた。

北山が死んで三か月が過ぎていた。北山の骨が埋まっている墓には毎日違ったお花が添えられていて、石はピカピカと光を帯びていた。それは藤ヶ谷の仕業だった。彼は毎日のように墓地に通い、花を入れ替えていた。その花々は珍しい物が多く、最初は赤い薔薇から始まりサンビタリア、ナデシコと様々だった。

その花たちの花言葉はどれも儚く、愛らしい物から悲しい物まで沢山あった。藤ヶ谷はそれを楽しそうにしていて、その表情からは曇りは無くなっていて晴れ晴れしい顔だった。北山を思い浮かべながら藤ヶ谷は甘い香りのお線香に火を点け、手を合わせた。


その日の夜、藤ヶ谷はずっと遠かった北山の背中に追いつき嬉しそうに笑いながら北山を抱きしめる夢を見た。その夢は何の意図で藤ヶ谷の脳内に流れているかはわからない。



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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時

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