戻ったって変わらないのに (ページ49)

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第五章　好きページ49

藤ヶ谷は一目散に走っていった。息を何度も詰らせながらも藤ヶ谷は必死に足を動かした。ここまで来た意識が無いほど藤ヶ谷は混乱していて、肩で大きく息をしていた。目の前にある扉が自分より何倍も大きく見えて肝が冷えた。けれど、藤ヶ谷は怖気づいている暇は無く躊躇せずにインターホンを押す。

ボタンを押してすぐにその扉が開かれた。藤ヶ谷は扉が開ききる前にその中の人物を抱きしめた。その彼はとても暖かく藤ヶ谷を安心させた。腕の中に納まられた北山は驚きつつも藤ヶ谷の背中に手を回す。藤ヶ谷はその途端、自分はまだ北山と付き合っていることを知れて涙が滲んだ。

　 K「……ど、どうしたんだよ、藤ヶ谷」

数秒間ずっと動かない藤ヶ谷に痺れを切らした北山は問いかける。声をかけられた藤ヶ谷は北山の肩を掴み、向かい合う。するとゆっくり顔を近づけてキスを降ろす。それは、とても優しくて軽いキスだったが、北山の温度が直に伝わって来て藤ヶ谷の気持ちは高揚する。北山はそんな彼に疑問と困惑しか浮かばなかった。

　 K「……いきなり何すんだよ、」

　 F「……ごめん、寂しくなっちゃって」

　 K「寂しくって……昼にまた会えるだろ」

　 F「いいじゃん、こういうのも。恋人みたい」

藤ヶ谷は先程の動揺してたのとは打って変わって優しく北山に微笑みかけた。今限られた時間をじっくり噛みしめているのだろう。北山は様子の可笑しい藤ヶ谷だけど、甘くて優しい彼に恥ずかしくて軽く笑った。藤ヶ谷もその笑顔を見て、頬を緩ます。そして藤ヶ谷はまた北山を抱きしめた。さっきより腕に力を籠めて優しく抱いた。

　 K「ほんと、どうしちまったんだよ」

　 F「……今日一日北山を独り占めさせて」

優しい声から一変、不安で震えた声に変わった藤ヶ谷。北山も異変に気付いて藤ヶ谷の顔を見る。すると藤ヶ谷はあの時のように苦しそうな表情だった。そこで北山の勘の良さが働いてしまい、全てを察してしまった。

　 K「……そっか。俺、今日死ぬんだな」

あっさりと発しられた言葉に藤ヶ谷の胸を締め付けて、少し息遣いが荒くなってしまった。呼吸を乱す藤ヶ谷の背中を擦りながら、北山はただ精一杯の笑顔を向けるしかなかった。

時間はどうしても進んでしまい、仕事の時間がやってきてしまった。藤ヶ谷は渋々現場に向かい、何気ない顔を装って仕事をこなしてゆく。あっという間に日は暮れて、空の明るさは消えて行った。藤ヶ谷は一時も北山と離れることなく、時々愛を確かめ合った。

けれど藤ヶ谷の表情は晴れることなく、北山は目じりを下げ困った顔をしていた。