馬鹿じゃねぇの? ページ42
慣れた手つきで北山は自分の部屋を開ける。少し重そうに扉を開けた北山は、扉が閉じないように背中で押さえて藤ヶ谷を見つめた。藤ヶ谷は少しの間、反応せずぼっーとしていたが、その意味に気が付きゆっくりと扉をくぐる。
藤ヶ谷が入った事を確認し、北山は扉から背中を離し重く締まる音が部屋中に響き渡る。部屋に入っても北山は藤ヶ谷の腕を頑なに離すことは無く、そのまま靴を脱いでリビングに藤ヶ谷を連れ込む。
ソファーに座ることも無く、お茶を出すのではなく北山はキッチンとテーブルの間に立って藤ヶ谷に黙って向き合うだけだった。そこでやっと北山の手から力が抜けた。
それを見計らっていたかのように藤ヶ谷はそれと同時に北山の手を振り払った。力強く振り払われて、北山の手はじんじんと痛みを帯びていた。けれどそれを気にせず、北山は藤ヶ谷をずっと見つめていた。
藤ヶ谷も手を振り払っても逃げることなく北山を見据えたまま立つ尽くしていた。この重々しい空気を突き飛ばして、先に口を開いたのは北山だった。
……お前タイムリープしてきただろ――――。
北山の想像を絶する言葉に藤ヶ谷は理解するのが遅くなってしまった。ただ固まることしか出来なかった。北山はそんな藤ヶ谷を疑いの目で睨みつける。
「……そんなの現実で有り得ないだろ」
「でも、藤ヶ谷は俺の未来を知っているだろ、」
「なっ……―-。」
「だから、俺に近づいた……」
「そ、そんなことは、」
藤ヶ谷の動揺は完全に認めているような仕草だった。目を泳がせたが、北山の目は決して離さなかった。けれど今でも泣き崩れどうな藤ヶ谷の目は脆くて細くなる。泣きそうな藤ヶ谷に気付かない振りをして北山は淡々と言葉を零すだけだった。
北山も藤ヶ谷と同じに泣き出しそうな顔をしていた。けれど北山は言葉を途切らす事は無く。苦しそうに言葉を繋いだ。
「馬鹿じゃねぇの?」
軽蔑するような北山の言葉に藤ヶ谷は口を半開きにするだけだった。その心の中では何かが込み上げて来ていた。その感情に気付かないように拳を爪が食い込むまで握りしめる。けれど北山はその込み上げてくる藤ヶ谷の感情に火を点けた。
「今更戻って、何が変わるっていうの?」
「……は、?―――-」
ここまで頑張ってきた藤ヶ谷の努力と、今まで募らせてきた想いが藤ヶ谷の背中から崩れ落ちる感覚に襲われた彼は、ぐっと下唇を噛んだ。
その唇からは少し血が滲んでいた。藤ヶ谷の口の中で鉄の味が広がる。その味覚も感じないほど藤ヶ谷の気持ちは込み上げて行った。こうなると人は止まらない。
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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時