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正直に話し合おう ページ40

藤ヶ谷の頭はぐるぐると渦のようになっていた。「ここでこのボタンを押したらどうなるのか」という不安に駆られていた。

藤ヶ谷はずっと不安に駆られ続けていたが、今までとは尋常じゃないほどの莫大な不安だった。かすかに藤ヶ谷の指が震えを帯びている。

恐怖に満ちた顔に変わっていた藤ヶ谷は、目を細めてあの七夕祭りと同じように泣き出しそうな表情になっていた。藤ヶ谷の鼻は赤くなりズズッと音を鳴らす。胸が苦しくなったのか藤ヶ谷は強く、苦しく握りしめた。

「引き返したい。」そう思ったが、藤ヶ谷の脳裏には今の不安の気持ちよりも後悔が押し寄せて来るのではないかと感じ取った藤ヶ谷は溜まってる涙が抑えきれず、一滴頬に零す。

その雫は何を意味しているのか分からない。だがそれは呼び出し音ボタンの上に落ちて弾けた。まるで涙が「押せ」と催促しているようだった。

俺は弱い――――-。

そのことは彼が一番理解している事だった。けれどそれを完全に受け入れてしまうと藤ヶ谷は自分を失ってしまうような気がした。だから認めなかった。藤ヶ谷は自分自身を。

悔しさで藤ヶ谷の涙が溢れた。ここで泣いている藤ヶ谷は周りから見たら、ただ変人なのかもしれない。けれど藤ヶ谷の涙は止まる気配がしなかった。藤ヶ谷は必死に袖で涙を拭う。

袖で拭いきれないほど溢れてきた涙を藤ヶ谷は落ちてゆくのを見つめる事しか出来なかった。ぽたぽたと数字のボタンに落ちてゆく。

藤ヶ谷の身体から水分が吸い取られてゆくように、彼の目はもう生気を失っていてそこには何の感情も湧いてこなかった。藤ヶ谷は弱々しく拳を握りしめた。

彼は開かずの自動ドアと逆方向を向く。藤ヶ谷は帰るつもりだ。莫大な後悔を残してでも彼は北山に会うことを辞めた。その彼の前に今一番会いたくない人物が現れた。

それは紛れもなく、北山宏光だった。

藤ヶ谷は唖然するしかなかった。北山は明らかにコンビニ帰りのようで片手にはビニール袋をぶら下げていた。北山も藤ヶ谷と同じように唖然する。北山の握っている手は一瞬緩んでビニール袋が落ちそうになったが、すぐに拳を握りしめて唇を噤んだ。

そして北山は藤ヶ谷を素通りした。呼び出し音ボタンの上にある鍵を認証する機会へ近づいて、鍵を認証しようとした。けれど数字の上が濡れている所を目のあたりにして、北山は顔を歪ませた。北山は藤ヶ谷の顔を見上げた。彼と目は合うことは無く、藤ヶ谷はただ床を見つめていた。

その目はまだ潤んでいて、酷く腫れていた。目の下は赤くなっていて見るからに痛そうだった。

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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時

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