ベコニア ページ30
二人の目は互いを映して離さない。相手が呼吸する音が良く聞こえた。
北山は驚きのあまり目を見開いたまま硬直していて、動いてるのは二人の周りを漂う煙だけだった。
藤ヶ谷は相手を見据えるように冷静な目だけれど、その奥には温かみを感じる。北山は表面上は困惑を表しているが、その裏には悲しみだけがあった。
数秒の出来事だった。けれど二人にとっての見つめ合っていた時間は何十倍にも長く感じていた。藤ヶ谷が北山の口に煙草を残し、顔を離す。
けれど元の位置に戻るのではなく、見つめ合うのをやめなかった。不意に北山の手から愛用の煙草が床に落ちる。
落ちたときの音はとても柔らかく静かだったが、その音が響くほど二人の空間はただならぬ静寂に包まれていた。
藤ヶ谷が口を開く。上唇と下唇が開いたことで口の空気が外に行き、空気の音が鳴った。
その時にかすかに北山の目が揺らいだ。何に動揺したのかは分からない。
けれどまるでその動揺は、何かを恐れるような揺らぎだった。藤ヶ谷がこれからいう事を聞きたくないかのような反応にも見える。
北山の少しの揺らぎにも捉える事が出来ないぐらい、藤ヶ谷は自分の覚悟に緊張していた。
体内から滲み出た汗が首筋から零れ落ちる。その首筋の近くにある藤ヶ谷の喉仏は締まった。
薄く浅く息を吸い上げて、共に藤ヶ谷の腹部が動く。脳に思い浮かべている事を声に乗せて、息と一緒に吐き出す。
F「……俺のあげる。」
その瞬間、今度は北山の喉が締まる音が鳴り息が止まる。喉と共に唇も奥に入りキュッと共鳴する。
けれどその目は安心したかのように瞼が少し下がっていて、穏やかに変わっていた。
藤ヶ谷は声を発した後、下唇が微妙に上がり口角が深くなる。まるで微笑んでいるような口に。
けどその目は緊張が緩んでは無く眉に力が籠められ鋭かった。
北山が完全に安堵したような顔になり、ライターを持つ手が上げようとして北山の目線が少し藤ヶ谷から外れた時に再び藤ヶ谷の唇が開き言葉が雫のように落ちた。
その発せられた言葉の振動が空気の流れに乗せられて進んでゆく。その先には北山がおり、北山の耳に届いて脳内に到着する。
北山の脳内でその振動を言葉に変換して、その後北山の中でその言葉の意味を理解する。すると数分経たずに藤ヶ谷がもう一度言い放った。
F「……好きだ。北山のことが、」
次はもうフレーズ追加された言葉を北山は再び呑み込んだ。けれどその目は大きく揺れ、目を細める。口は歯をくいしばっていて、右口角が深くなる。
北山は本当に顔を歪めているかのような顔になった。
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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時