イベリス ページ26
ドキドキしている自分に気付かないふりをして藤ヶ谷はドアノブに手を乗せ、ゆっくりとその手に力を込めた。きぃっと錆びた鉄が音を鳴らす。
そこで露になった楽屋を一目瞭然すると、そこにはさっき北山にかけたジャケットを抱いている彼の姿が藤ヶ谷の目に留まった。
彼は自分に気付くなり顔を赤くして、照れ臭そうにしていた。さっきまで落ち着いていた藤ヶ谷はどこかへ行ってしまい、目を泳がせている。
F「……いい加減にしてくれ、」
K「……え、」
心の声が漏れてしまった藤ヶ谷の言葉はとても小さく、北山の耳にはかすかにしか聞こえなかった。それで彼は聞き直すように耳を藤ヶ谷の方に向ける。
その風景も目に入らないほど、藤ヶ谷の理性はギリギリだった。自分は彼の事を傷つけたくないから遠慮しているのに煽るような北山の態度に胸を苦しめた自分に自嘲する。
藤ヶ谷の何かが切れた。ぷつりっと小さく音を立てる。その音は藤ヶ谷の脳内だけに響いていった。
衝動に任せて藤ヶ谷は足早に北山に近づく。それに驚いた北山は反射的に後ずさりをする。少し追いかけっこをして北山は楽屋の奥の壁にぶつかり、行き場を失う。
北山が壁にぶつかった瞬間、藤ヶ谷は両手を壁に付けて完全に北山を包囲する。壁に手を付けたときの音に驚いた後、藤ヶ谷の顔をチラッと見ると北山の身体は震えを帯びていた。
無理矢理を嫌っていた藤ヶ谷とは対照的な行動に出た藤ヶ谷は我を失っていた。北山を軽く見据えると顔を近づける。
K「!……ふじ、っがや、……」
小さく震えた声で拒絶するのではなく彼の名前を呼んだ北山。それは受け入れてくれているのか、ただ怯えて声が出せないのか分からなかった。
けれどそんな北山にすがるように藤ヶ谷はどんどん距離を詰めていく。北山はその時力いっぱいに目を閉じた。その瞼も震えを帯びている。
その姿を見た藤ヶ谷は我に返る。身をすくめて目の前にいる自分に怯える姿を見て、藤ヶ谷の理性が止めにかかった。
顔を近づけたまま時が止まる。まだ北山は瞼を閉じていてなかなか自分が思っていた展開にならないため、眉が片方上がる。
そんな北山の姿を見て、少し笑いがこみあげた藤ヶ谷は笑みを浮かべながら北山の頬に手を伸ばす。ぷにっと効果音がなるほど北山の頬をつねる藤ヶ谷。
いきなり頬に痛みが走った北山は衝撃で目を開ける。目の前にはいつも通りの藤ヶ谷がいて少し安堵したように見える。
しばらく藤ヶ谷は北山の頬を伸ばしては戻すという謎の行動を続ける。それを北山は拒絶することなく彼を見つめていた。
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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時