第一章 赤い薔薇 ページ1
ずっと好きだったんだ。藤ヶ谷の目線はずっと北山に絞られていた。ずっと離さず、その目線の意味は熱が籠っているように感じる。離すときは北山と目線があった時だった。
その時は冷たくさり気なく、何もなかったように。これはキングだから出来る技なのかもしれないと思えてくる。
そんな熱い視線を向ける藤ヶ谷太輔は北山宏光に恋をしていた。けどその恋は何年経っても進展することは無かったのだ。
それは、藤ヶ谷太輔はキングな故意気地なしだったから。好きな子についつい冷たくしてしまうのが彼の特徴だった。もう堕ちてると言っていい程の恋心は、北山には全く届いていないようだ。そんな視線を気にすることなく北山は仕事をこなす。
こんな微妙な距離にメンバーは前から嫌程気付いていたのだ。支えるかのように見守るメンバーの目線はただ、温かい物だった。
それでも撮影はそんな事を気にすることなくスムーズに進んでゆく。炎のように燃える太陽に照らされる炎天下の中。北山は夏の男だが流石にきついようだ。汗が少し目立つようになった。
ずっとそんな彼を見つめてる藤ヶ谷はすぐさまその変化に気付き、無意識にタオルを手に取るが、その足は動かないままだった。
するとそんな彼を見かけたメンバーの中の1人で、特に藤ヶ谷と仲が良い横尾は、そっと彼の背中を押した。藤ヶ谷は体制を崩しどよめいたが押した犯人が分かった瞬間頬を緩ませた。また送り出した横尾も微笑んだ。
そんなやり取りを水が滴るペットボトルを口に運んでいる北山は何やら不服そうな顔をしていた。藤ヶ谷が自分に近づいてると分かると何故かパイプ椅子から慌てて席を立ちわざとらしくそっぽを向いた。
F「……北山。」
K「……何、」
北山はまだ口を尖がらせて不服な顔をしていた。だが無言で差し出されたタオルに戸惑いの顔に変化する。そのままタオルを黙ったまま持っていた藤ヶ谷は痺れを切らした。
ペットボトルを持っていない片方の手を取って無造作にタオルを置くと去って行った。その去って行く背中はなんだか嬉しそうだった。
K「……何だったんだアイツ、」
そんな彼の心情を気にすることなく北山は彼から貰ったタオルで汗を拭う。その姿を隠れて見ていた藤ヶ谷の表情は何とも言えない笑顔だった。
また、その光景を見せつけられたメンバーの顔は呆れていた。
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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時