やわではない 沖田side ページ10
…俺がこうして、うだうだ迷って悩んで、怖がって、足を止めている間に、Aは少しでも強くなろうとしていたのだ。竹刀を握り締めて、まるで戦場を見据えているかのような目で前方を見つめて、前へと進もうとしていたのだ。俺に気付くことなく竹刀を真っ直ぐに振り落としては持ち上げて、また振り落とすと繰り返しているAの表情は、真剣そのものであった。剣を振るうと同時に踏み出される足が、力強い。床を踏みしめる音は、小柄なAから発されているとは思えないくらいに頼もしい音をしていた。迷いや怯えや、様々な邪魔なものを何もかも踏み潰して、蹴散らして、突き進もうとしているような音に。輝く汗に、俺は何が出来るでもなく立ち尽くしていた。
…俺が護りたいと、何よりも護りたいと強く思っているあの女は。そうだ。日下部Aは、そんなものが必要ないくらいに強いのだった。刀を突きつけられて、それでも立ち向かえる女は。弟のために、自らの命を二の次にしてでも戦っていたあの女は。俺が恐れるほど、やわではないのだ。
…やっぱり、弱いのは、俺なのだ。それを、思っていた通りまた思い知らされてしまった。
「…沖田隊長?」
と。不意にAがこちらを見て、パチリと目があってしまった。俺が居ることに漸く気付いたAは、少し目を丸くしながら稽古を中断させた。俺はさっきまでの複雑に入り交じったような心境を悟られないように毅然とした態度で、「よォ」と呟く。
「…自主稽古かィ」
「え、えぇ。なんか……じっとしていられなくて…」
曖昧に笑って見せながら、Aはそう答えると、俺に歩み寄りながらに「沖田隊長こそ、」と。
「まだ寝ていなかったんですね。てっきり既にご就寝中かと」
「……なんか、眠れなくてねィ」
「珍しいこともあるものですね、いつもはお昼寝をしていたとしてもぐっすり眠ってるのに」
頑なに朝起きないくらい、と。嫌みを混ぜたような口調でAは言って、昼寝と夜寝は別もんでィ、なんて適当なことを返せば呆れたように溜め息をついた。いつも通りのAの様子……に、見えるが、そうではないことに、俺は気付いていた。
…俺にバレないように心掛けているようだが、いつも傍に居る俺には隠しきれない。俺を見つけてから肩に力が入っているし、瞬きの回数が多い。どうにも緊張しているようであった。
…稽古をしながら、Aも色々なことを考えていたのかもしれない。
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樹里 - 今回も陽太くんかっわいいっ!!うちの弟もこうだったらなぁ〜 あと、全然関係ないんですけど、名探偵コナンに沖田総司っていう人が出ててめっちゃびっくりしました。ちょっとパクられたような気がしたんで、ソッコーでコレ読みました(笑) (2018年10月7日 18時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 樹里(元茉莉華)さん» 樹里さん!お久し振りです!コメントありがとうございます!いい感じのところですね〜私もここらへんは苦戦しつつも書けるときはとことん楽しんでいたので、うまいこと盛り上げられたらいいなと思います!着実に成長していく二人をお見のがしなく!(笑)頑張ります! (2018年9月26日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
樹里(元茉莉華) - ピピコさんお久しぶりです! なんかいい感じのとこですねっ!! 更新楽しみにしてます! (2018年9月25日 17時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ヒタキさん» ヒタキさん!初めまして!ありがとうございます!いっぱい読んでださってるんですね…!すごく嬉しいです!何度も読み返してもらえるようないいお話が書けていたらいいなと思います!これからもドキドキワクワクして貰えるように頑張っていきます!! (2018年9月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ヒタキ - こんばんは!初コメさせていただきました。ピピコさんのこの小説本当に大好きで何回も読ませてもらっています!!いつもドキドキワクワクです。これからも応援しています^^ (2018年9月6日 23時) (レス) id: 130f1442ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月15日 19時