言えるはずがない 沖田side ページ9
…心臓の辺りが、痛かった。ドクン、ドクン、と重く響く音を俺の身体の内側で。肋骨の奥で立てていて、静かな夜の静寂にもそれが漏れて聞こえていそうだ。ゆっくりと、躊躇いを含みながらも足を道場へと進めていく。何処かで、そっちに行ってはいけないと思っている自分が居た。道場に行ったら。その扉を隔てた向こう側を見てしまえば、俺はまた自分の不甲斐なさを再確認することになる。ただでさえもうそんな自分の不甲斐なさや情けなさを目の前に突き付けられているようなものなのに、もう十分にそれを自覚しているはずなのに、その光景を目にしたら、俺の中の何かが痛め付けられることは、分かっていることなのに。それでも俺は、道場に向かう足を止められない。それどころか、止めるつもりさえなかった。
…そこに誰が居て。ソイツがそこで何をしているのか。俺は分かっていた。そんな物好きを、俺は知っていた。真選組に居る奴等はそんな物好きだらけだけれど、その中でも、日々の努力を決して怠らない。何を護りたいのかハッキリと見えていて、そのために強くなりたいのだと刀を握ることを望み続けている奴が、そこには居るのだ。
数センチだけ開けられたそれを少しだけまた開けて、俺は道場の中を目にした。
「…ッ、…」
…ブンッ、と。竹刀を振り切る音が聞こえた。空気を斬り裂く音だ。その竹刀が振り下ろされると同時に、キラキラと照明に照らされて輝く汗が散っていた。ここに誰が居るのか、分かっていたのに、俺は知っていた目を見開かせていた。
…その姿が、あまりに綺麗だったから。
「…A」
そこで竹刀を握り締めて居たのは、Aだった。さっきからずっと考え続けていた奴だった。竹刀を振り下ろすたびに切らした息を吐き出しながら、迷いなくそれを振るっている。稽古中に着るようにしているらしい袴姿で、そこに立っていた。
…あぁ、やっぱり。見るんじゃなかった、なんてことを俺は思う。胸の辺りを強く掴まれたような感覚。
『…貴方の隣で、貴方を護らせてください』
…護りたいものを護るために。それだけの力を得るために。そして、俺の隣で、俺を護るために、アイツはここに居るのだ。そのことをよく知っている俺は、やっぱりどうしようもなく揺らいでしまう。だが、この姿を目にしたら、Aに「お前は待機だ」なんて、言えるはずがないじゃないか。
…この姿を見ても尚、そんなこと、言えるはずがないじゃないか。
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樹里 - 今回も陽太くんかっわいいっ!!うちの弟もこうだったらなぁ〜 あと、全然関係ないんですけど、名探偵コナンに沖田総司っていう人が出ててめっちゃびっくりしました。ちょっとパクられたような気がしたんで、ソッコーでコレ読みました(笑) (2018年10月7日 18時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 樹里(元茉莉華)さん» 樹里さん!お久し振りです!コメントありがとうございます!いい感じのところですね〜私もここらへんは苦戦しつつも書けるときはとことん楽しんでいたので、うまいこと盛り上げられたらいいなと思います!着実に成長していく二人をお見のがしなく!(笑)頑張ります! (2018年9月26日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
樹里(元茉莉華) - ピピコさんお久しぶりです! なんかいい感じのとこですねっ!! 更新楽しみにしてます! (2018年9月25日 17時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ヒタキさん» ヒタキさん!初めまして!ありがとうございます!いっぱい読んでださってるんですね…!すごく嬉しいです!何度も読み返してもらえるようないいお話が書けていたらいいなと思います!これからもドキドキワクワクして貰えるように頑張っていきます!! (2018年9月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ヒタキ - こんばんは!初コメさせていただきました。ピピコさんのこの小説本当に大好きで何回も読ませてもらっています!!いつもドキドキワクワクです。これからも応援しています^^ (2018年9月6日 23時) (レス) id: 130f1442ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月15日 19時