【銀魂】沖田隊長、約束をしましょう【沖田総悟】

得体の知れない不安　沖田side ページ6

俺の体温で少しだけ温もりを持った布団から立ち上がって、先程土方さんが出ていった襖を開けて廊下に出た。部屋を出ると、すぐそこは縁側になっており、縁側から見える景色が風に揺られていた。桜の残り香を纏ったような風が吹き抜けて俺の前髪を弄んで、額がくすぐったかった。春は瞬く間に過ぎ去っていくものだ。春を象徴するような桜は一瞬で散っていってしまう。こんな独特の甘い匂いも、すぐに梅雨の匂いに移ろっていくのだろう。そんなことを思いながらに後ろ手で襖を閉めてから、俺は足を進めていく。別に何処に向かうわけでもないけれど、屯所内を歩こうと思う。屯所の外に出ることも考えたが、そうなると刀を持っていかなければならなくなる。もう寝巻きに着替えているし、また着替えて刀を腰につけて歩く気にはなれなかった。

屯所は静まり返っていた。先程自室の壁にぶら下げられている時計を見たところ、もう9時を回っていた。寝ている奴等が大半なのだろう。通過する部屋のほとんどの明かりが消えていた。微かにいびきも聞こえてくる。所々で明かりがついている部屋もあったか、特に何をしているのかなんて興味はないし、あまり隊士のプライベートに干渉しても悪いだろう。俺は無言で通りすぎていく。きっと俺の部屋から帰ってから仕事を再開させただろう土方さんの部屋の前も。


…何か飲み物でも飲みに行こうか。顔でも洗いに行こうか。けれどそんなことで気分が晴れることはないように思える。そんな簡単なことで俺の中にしつこく居座り続ける厄介な何かが消え去ってくれるのなら、こんなに苦しむことはないだろう。俺が求めているのは、そんな気休めのようなものではないのだ。

なんだか、得体の知れない不安に飲み込まれそうだった。出口の見えないトンネルをひたすらに歩いているような。明かりひとつない暗闇をさまよい歩いているような。手探りで出口を探すけれど、目を凝らして何か状況を打破するものが落ちていないかと思うけれど、何も見つからない。不安が焦りに変わっていく。


…俺は、どうしたいのだろう。
…俺はAをどうしたいのだろう。


食堂にて、コップを取り出して水道水をそこに注いで喉に通しながら、またそんなことを考える。一気に飲み干して、溜め息のような、そうではないようなと息を漏らした。口元についた水を拭って、薄暗い食堂を見渡した。ガランとしたそこには、退屈そうに椅子やテーブルが並んでいるだけだった。

何をするでもなく、コップを適当に洗ってから、食堂を後にした。

どんな顔をするだろう　沖田side→←なら、俺は？　沖田side

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