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逃げようとしない 沖田side ページ12

「…あのっ、」


沖田隊長、と。そんな、上ずった声が響いた。緊張を隠せていないような、ガチガチに固まっている声だった。引っ込み思案な子供の自己紹介よりも、ずっとずっと緊張している声。俺は無意識に伏せていた顔を反射的に上げて、Aの顔を見据えた。額に汗をかいて、前髪が張り付いている。まだ春の途中なのに、まるで夏に差し掛かってきた季節の中を駆け抜けてきたかのようなその姿に、Aの努力が窺えた。ここに居る誰にも負けないくらいに自分を律し、強くなろうと小さな努力を忘れない。自分の部下として、とても誇らしく、自分の惚れた女として、やはりコイツのこういうところが好きなのだと俺は場違いに思う。こんな風に何に体しても一生懸命で、自分の中にある何かを削りながら生きていて。その姿が、本当に綺麗だった。

…不意に、雨の日の。Aに出会った日のことを、思い出していた。


そして、同時に、Aがこれから口にすることを、俺は察した。俺は臆病だから、遮って俺から言うことも、言うなと止めることも出来なくて、「…どうした」と返してしまう。Aは泣き出してしまうんじゃないかと杞憂してしまうくらいに、真剣な表情をして俺を見据えていた。


Aは躊躇いを振り払うように、口にする。


「…しょ、勝負をしてください…!!」

「……勝負?」


…と。思っていたこととあまりにも違ったことを言い出したため、俺はなんだか間抜けた声を発してしまう。どうしていきなり、勝負なんかするのだろうか。Aは「はい」と頷いて、近くに竹刀を纏めて置いてある場所まで歩いていく。


「変なこと言い出してごめんなさい。でも…こうでもしないと、言えないから…」


そう言いながら、竹刀を一本手にとって、振り返り、俺を真っ向から睨み付けるように、睨み付けてはいないけれど、それくらいの覚悟を纏った目で見た。俺はその目に内心で怯んでしまった。あまりに、強い目だった。


「私が勝ったら、私のお願いを聞いてください」

「…!!」


そう言われて漸く、俺は理解した。

…コイツは、本気だ。俺に挑んで、勝って、俺を頷かせようとしているのだ。実力で俺を黙らせるつもりなのだ。そんな乱暴なことは考えていないだろうけれど、それは、Aらしく誠実で、コイツはまた、ちゃんと俺とぶつかり合おうとしているのだ。


…Aは、色んなことから、逃げようとしない。


「勿論、手加減は無用です」


…逃げるなんて選択肢を、見てはいないのだ。

強くなりたい→←奪っている 沖田side



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設定タグ:銀魂 , 沖田総悟   
作品ジャンル:アニメ
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樹里 - 今回も陽太くんかっわいいっ!!うちの弟もこうだったらなぁ〜 あと、全然関係ないんですけど、名探偵コナンに沖田総司っていう人が出ててめっちゃびっくりしました。ちょっとパクられたような気がしたんで、ソッコーでコレ読みました(笑) (2018年10月7日 18時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 樹里(元茉莉華)さん» 樹里さん!お久し振りです!コメントありがとうございます!いい感じのところですね〜私もここらへんは苦戦しつつも書けるときはとことん楽しんでいたので、うまいこと盛り上げられたらいいなと思います!着実に成長していく二人をお見のがしなく!(笑)頑張ります! (2018年9月26日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
樹里(元茉莉華) - ピピコさんお久しぶりです! なんかいい感じのとこですねっ!! 更新楽しみにしてます! (2018年9月25日 17時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ヒタキさん» ヒタキさん!初めまして!ありがとうございます!いっぱい読んでださってるんですね…!すごく嬉しいです!何度も読み返してもらえるようないいお話が書けていたらいいなと思います!これからもドキドキワクワクして貰えるように頑張っていきます!! (2018年9月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ヒタキ - こんばんは!初コメさせていただきました。ピピコさんのこの小説本当に大好きで何回も読ませてもらっています!!いつもドキドキワクワクです。これからも応援しています^^ (2018年9月6日 23時) (レス) id: 130f1442ec (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月15日 19時

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