真綿の策略【宮侑】

でこぼこ未来地図 ページ48

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「私だって不安だよ。宮は遠い人になっちゃったから。距離もそうだし、ますます人気出ちゃってさ」

　でもね、と朝原さんが区切った。小さな口が淀みなく動く。

「電話するたびに宮は私のこと好いてくれてるんだってわかるし、私も何年たっても宮はかっこいいと思う。変わらないどころか、毎日更新されてるよ。全然、感情が色あせたりしない。これからもずっとそうなんだと思う」
「それは俺も同じやけど……」
「芯は別として、宮の言うとおり、良くも悪くも私たちは変わっちゃうよ。絶対そう。でも、変わったきみも知りたい」

　言葉に詰まる。朝原さんは強い。俺は、変わってしまうことばかり憂いて、その先を考えたことがなかった。

「例えば、今日眼鏡かけてるでしょ、宮。珍しい、似合うな、かっこいいなって思った。知らないきみを発掘していくのはいけないこと？」

　穏やかな口調だった。思わず、つるりと声が滑り出る。

「……朝原さん、好きや」
「今日はやたらと言うね？」

　くすぐったそうに緩む口元。それを引き締めて朝原さんは再び告げた。

「距離が離れてることで不安になってしまうのなら結婚しよう。絶対後悔しないし、させないよ。……宮がもう少し遊んでいたいっていうなら別だけど？」

　挑むような、焚き付けるような言い方だった。それに応えるように、俺はにっと口角を上げる。

「残念、俺は朝原さん一筋やで」
「知ってる！」

　何だかおかしくて、二人揃ってくすくす笑う。それから、朝原さんが録画していたという俺たちの試合を一緒に見た。

　……後日。
　一部始終を治に報告すると、宇宙人を見る目で見られた。

「……は？ツッコミが追いつかへんのやけど」
「ツッコむとこあったか？」
「ツッコミ所だらけやアホ」

　何時になく低い声。頭が痛いとでも言いたげだ。

「お前はそれでええんか。全部彼女に任せて。双子の片割れとして情けないわ」
「う、うっさいわ！」
「そもそも返事してへんやんけ。ほんまに結婚する気あるん？指輪は？」

　……治の言う通りだ。どうしてそんな大事なことを忘れていたんだろう。慌てて朝原さんに連絡した。

「ああ、結婚の件？保留にされちゃったかなと思ってた」

　呑気な声に悲鳴を上げてしまったのは不可抗力だ。電話を切って、治とぎゃあぎゃあと騒ぎながら改めてプロポーズする計画を立てる。取り敢えず指輪だ。
　相変わらず、俺たちはでこぼこだし空回りする。そうして、一緒に生きていくのだと思った。

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