100:愛おしくて苦しくて ページ50
やっと言葉にして出てきた思いは真っ直ぐ松村さんに向けて走っていく。
自覚してしまったこの気持ちは、途端にどんどんと私の中でその姿を大きくしていく。
湧き上がってくるこの感情をどうしたらいいのか分からず、堪らなくなって松村さんに抱きつく。
鼻先をくすぐる松村さんの香りに胸の奥がギュッとなる。
「ねぇ、Aさん、これはズルいって、」
胸の中にすっぽりと収まる私の頭の上から、松村さんが困ったような声をあげる。
指先に触れていた熱は全身に広がって、苦しさが姿を消していく。
「両思い、ってことでいいんですよね、？」
「はい、」
「…どうしよ、俺、今、すげぇ幸せ」
「私も、」
お互いにまた抱きしめ合う腕に力を込める。
胸の中、少しだけ薄くなる空気さえ今は愛おしい。
腕の力を緩めてその代わりに互いの顔を見合う。改めてそんなことをしたらやけに気恥ずかしくなって、その空気に耐えきれずに口元が緩む。
「そんな見ないでください」だなんて言いながら笑い合う。
体の力が抜けていくような、このふわふわとした感覚は不思議だけど、とても心地いい。
「手、繋いでもいいですか」
2人で並んで歩いていたら、松村さんが少し恥ずかしそうにそんなことを言うから、思わず笑い声をあげる。
「ダメです」
「なぁんで！」
「聞かれたらそう答えたくなりません？」
「Aさんって実はそういう人？」
「さぁ？どうでしょう」
ふふふ、って笑う私の手を半ば強引に松村さんがとる。
さっきまで抱きしめられてたから、それに比べたら手を繋ぐことなんて別にどうってことなんかないはずなのにやけにドキドキしてしまうのはなんでだろう。
「最初から聞かないでこうすればよかったわ」
「松村さんって意外と強引ですね？」
「さぁ、どうですかね？」
ふふ、って真似するように顔を覗き込んで笑う松村さんの姿にまたドキン、と胸が音を立てる。
あぁもう！心臓がもたないかもしれない。
苦しくて、ドキドキして、ギュッてなって。
私の寿命、多分今日で10年くらい縮んでる。
「松村さん、どうしよう」
「ん？」
「好きすぎて、苦しい…」
「え、ちょっ、待って！なにそれ、かわいい！録音したい」
「…こわ、」
「いや、え！引かないで！」
慌てる松村さんを横目に私は小さく笑う。
この苦しささえ今は愛おしいだなんて言ったら、松村さんになんて言われるかわからないから、今は黙っておこう。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
