94:一途な愛 ページ44
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沙希は、幼馴染だった。そして俺の元カノでもある。
まぁ元カノと言っても、恋愛感情があったのは沙希だけで俺はこいつに1ミリたりとも恋愛感情を抱いたことはないんだけど。
「北斗！一生のお願い！」
あれは俺が高2で、沙希が中3のたしか夏の終わりだった。
パチン！と両手を合わせて頭を下げた沙希。俺はそんな沙希のツムジを眺めながら「あ、こいつは右巻きなんだ」なんて考えていた。
「北斗のことが好きなの、だから」
「無理。俺、沙希のことそんな風に見たことない」
だから私と付き合って欲しい、とでも言いたげな沙希の言葉を遮るようにそう言った俺に沙希は苦しそうな視線を向けた。
「そんな、、、でも北斗のこと、本当に好きで。そんな簡単には諦められないよ…」
「そんなこと俺に言われても」
「私のこと好きになる可能性は？！少しくらいあるでしょ？！」
「ない。お前は幼馴染でしかない」
「そっか、、」
わかりやすく項垂れる沙希の姿にようやく諦めてくれたか、と思ったら、パッと顔を上げた沙希は真剣な瞳でこちらを見つめるとありえないことを言い出した。
「じゃあ、1ヶ月だけ！1ヶ月だけ付き合って！」
「は？」
なんで好きでもない奴と期間限定だとしても付き合わなきゃいけないんだ。それが幼馴染だとしてもそこまでする義理もない。
「それでちゃんと諦めるから」
そんな約束の元、俺たちは彼氏彼女の関係になり、そして予定通り1ヶ月で別れた。
ただ、予定外だったのは、諦めると言った沙希が「やっぱり諦められない」って言い出したこと。
それは10年近く経った今も変わらず。
途中で彼氏がいたこともあるみたいだけど、結局「北斗じゃなきゃダメだった」なんて戻ってくる。
それを一途な愛だと受け入れられたらいいのだろうが、生憎それは叶うことはない。
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「慎太郎、会計」
「はーい。その子も一緒？」
「別で」
「お前、分かりやすいな」
「なにが」
「別にこっちの話」
ニヤニヤしながら何か言いたげにこちらを見る慎太郎からお釣りを受け取ると、店の外へ出る。
後ろから沙希が俺を呼ぶ声が聞こえたけど、それに振り返るつもりもない。
Aさん、家に帰ったよな…
会えない可能性も高いだろうし、会えたとしても多分話を聞いてもらえないだろうけど。
でも、このままでいいわけない。
俺はAさんの家の方向へと足を進めた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
