93:幼馴染 ページ43
H side.
「ちょっ、Aさん！」
お邪魔ですよね、って言ったAさんが席を立ち去ろうとするのを追いかけようとしたが、腕を引っ張られ動きを止められた。
お会計をしているらしいAさんを前に慎太郎がこちらに「いいの？！」なんて視線で訴えてくる。
いいわけねぇだろ、って心のなかで悪態をつく。
どうしようも出来ないこの状況にただただ苛立ちだけが募る。
「離せよ」
「えーなんでー？」
久しぶりに会えたんだしいいじゃん、なんて腕に絡みつきながら俺の顔を覗き込む沙希を横目で睨みつけると、やっと体が離れた。
ほんのり残った沙希の体温には嫌悪感しかない。
「なんで、じゃねぇよ。最悪なんだけど」
せっかく、Aさんとちゃんと話せると思ったのに。
沙希が余計なこと言うから絶対Aさんに勘違いされた。マジで最悪なんだけど。
「…はぁあ、」
「ため息ついてどうしたのー？」
「お前、わかんねぇんだったら相当馬鹿だな」
「ひっどーい。昔の北斗はそんなんじゃなかったのにー」
「昔からこんなんだったよ、俺は」
甘ったるい、妙に間延びした沙希の声が頭に響く。
「北斗、あの人のこと好きなの？」
さっきまでAさんが座ってた席に座った沙希が首を傾げて顔を覗き込む。
それがAさんだったらどんなに心弾むだろうな、なんて思いながら突きつけられる現実に腹が立つ。
「沙希に関係ないだろ」
「なぁんでよぉー彼女じゃん？」
「"元"な」
「私はまだ北斗のこと諦めてないもん」
「俺はとっくの昔にお前とのことは忘れた」
「ひどい！」
沙希のわざとらしい泣き真似に小さく舌打ちをし、残っていたビールを一気に飲み干す。
パチパチと喉で弾ける苦味に顔を歪めた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
