90:苦しい ページ40
「松村さんは、」
「ん？」
「松村さんは、私のことどういう風に思ってるんですか、？」
質問に答えず、まして質問で返すなんてズルいとは思うけど。
言葉にすることで、核心に近づくのが怖かった。
「俺は、」
松村さんが真っ直ぐにこちらを見た。
その瞳に私の顔が映ってるのが見える。
次にくる言葉は、どんなものだろう、と思ったらドクン、と鼓動が大きく脈打つ。
その言葉が好意的なものだったら、いいのになんてちょっとだけ期待をしてる自分がいる。
「俺は、Aさんのこと…」
松村さんがひとつ小さな息を吐いて。
次の言葉を言おうとした瞬間だった。
「…北斗？」
松村さんのことを呼ぶ可愛らしい声が賑わう店内でやたらとよく聞こえた。
振り向いた先には声の通り、可愛らしい女性が立ち、こちらを見ていた。
「沙希、？」
「やっぱり北斗だ！」
会いたかった！なんて。その沙希さんとやらは座っている松村さんの腕に絡みつく。
松村さんは「やめろよ」なんて言いながらもその腕に絡みつく沙希さんを無下に扱うことはしない。
なんだろう、この空気。
「あの、松村さん、こちらの方は、？」
「あぁ、沙希は幼馴染で「それで北斗の彼女です」
松村さんの腕に絡み付いたまま沙希さんはそう言うと、私に向けて満面の笑みを向けた。
「へぇ…そうなんですね、」
「ちょっとお前、変なこと言うなよ、！すみません、Aさん違くて、「なんでー？別に変なことじゃないでしょー？」
仲良さげに会話を繰り広げる2人を前に私の居場所はすっかりなくなっていく。
「私、お邪魔ですよね。すみません、これで失礼しますね」
「ちょっ、Aさん！」
松村さんが何か言いたげな顔をしたけど、それを振り払うように席を立つ。
慎太郎さんに多めにお金を渡して、逃げるように店を出た。
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今すぐこの場からいなくなりたくて、店を出ると半ば走るように家までの道を辿る。
苦しいのは走ってるせいなのか、それとも別の理由なのか。
そんなのわからないけど、とにかく胸が苦しくて仕方なかった。
もつれそうになる足を堪えながら、必死に走って。
やっと辿り着いた自分のマンションが少し先に見えた瞬間、堪えていたものが溢れ出す。
「…A？」
私のことを呼ぶ人がいる。
指で溢れ出す涙を拭って、顔を上げる。
そこに立っている人物の姿に、また胸がひとつ苦しくなった。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
