89:妬けちゃうな ページ39
あの日から数日後。
京本のことを謝りたい、と松村さんに連絡した私の申し出を松村さんは快く受け入れてくれた。
「本当にすみませんでした!」
慎太郎さんのお店。
お詫びに今日は奢りますから好きなものを頼んでください!って言ったら丁重にお断りされた。
「Aさんが謝ることじゃないでしょ。どっちかっていうと煽った俺が悪いし」
「煽った自覚あったんですね?」
「なんか明らかに敵対心持たれてるのがわかったらつい、」
「つい、じゃないんですけど?!?あの瞬間、何もやましいことなんかないのに修羅場じゃんって心の中で頭抱えてましたよ」
松村さんはお腹を抱えて笑ってるけど、全然笑い事じゃない。
横目で睨むと松村さんが「そんな怒らないでください」なんて眉を下げる。
「でーも、あれは修羅場だったよねー?」
俺、無関係なのに背筋に嫌な汗かいちゃったもん、なんてひょっこりと顔を覗かせた慎太郎さんが笑う。
「そう思ってたなら助けてくださいよ!」
「えーやだよ、俺に飛び火したらやだし」
俺、平和主義者だからさーなんて慎太郎さんは笑う。
みんななんだかんだで楽しんでるじゃん。
拗ねてビールを煽るように飲んだら「やけ酒禁止ですよ?」なんて松村さんに優しく咎められた。
「でも、京本さん、ほんとにAさんのこと大事なんですね」
好きという意思表示をされてから、京本が今まで私にしてきてくれたことが同期だからではなく恋愛感情の上のものだったことに気づく。
突っかかってくるわりにやたらと過保護な一面もあるな、なんて思ってたはいたけど。
自分は割と鋭いほうだと思っていたけど、全然そんなことなかった。むしろ鈍すぎてため息すら出る。
「なんか妬けちゃうな」
「妬けちゃうって、京本とはそんな、」
「そんな関係じゃないって?」
「ただの同期ですよ、?」
「ふーん?」
含みをもたせた笑みを浮かべこちらを見る松村さんに思わず目を逸らす。
別にやましいことがあるわけじゃないけど。
松村さんにそういう風に思われてるっていう事実が胸に変な波を巻き起こす。
「じゃあ俺は?」
「え、?」
「俺はAさんにとって、どういう存在?」
首を傾げた松村さんの動きに合わせて、くるん、と丸まった毛先が揺れた。
真っ直ぐ向けられた視線に少しだけ緊張する。
どういう存在なんだろう。
言葉にしようとすると難しい。
しかもそれを本人を目の前にして言うとなると余計に、だ。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時