78:思うツボ ページ28
…外が明るい。
結局、一睡も出来なかった。
だって瞼閉じたら京本の顔がぼわんって浮かんでくるんだもん!
寝よう寝ようとするのに瞼を閉じるたびそれは京本に阻まれて、気付けば空には太陽が登っていた。
今日が土曜でよかった、と心底思った。
あんなことがあってこれで翌日仕事とかだったら、もう私、死ぬ自信しかない。
しかも、キス、された。昨日。京本に。
もう熱もなにも残ってないはずの唇にそっと指を当てれば、まだ昨日の感覚が湧き上がってくる気さえする。
「ああーーもう無理!!!やだ!!」
枕に顔を押し付け叫ぶけど行き場のない感情は消えることなくそこに居続けるからタチが悪い。
…これじゃ京本の思うツボじゃん。
最悪、と毛布を被ってギュッと目を閉じた。
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「うわ、月曜日の朝イチでその顔はやばい」
結局、週末もロクに眠れず過ごした。
それもこれも全部コイツのせいなのに、その張本人はこんな調子だから嫌になる。
「誰のせいだと思ってんの?」
「え、誰?」
わかんない、なんてとぼけたことを言う京本「お前だ!京本!」と威嚇をするけどそれは全然効果なんかなくて。
「うわ、俺のことずっと考えてくれてたの?」
恥ずかしいんだけど、とか見当違いもいいところのコメントもおまけにしてくるし。
もうここまでくると怒りを通り越して呆れてくる。
これが、我慢しないから、って宣戦布告してきた京本の本領発揮ってところなのか?
それなら、もう無理。ギブアップしたい。
「あれ?仲直りしたの、2人」
目の前の阿部くんは、前みたいにやり合う私たちを見てなんか嬉しそうにニコニコ笑顔を浮かべる。
その笑顔すら今は恨めしい。
「仲直りなんか「そ、仲直りした。っていうか、俺が猛アプローチ始めて、Aが意識し過ぎてガルガルしてる感じ?」
「なるほどね。ま、頑張ってAさん」
「阿部くん?!?助けてはくれないわけ?!」
「助ける義理ないし」
「ひど!人でなし!」
なんとでも言いなさい、なんて笑顔で交わす阿部くんにもうぎゃー!って威嚇してたら部長に「A、仕事しろ」って怒られた。なんで私だけ。
こんなんじゃ仕事にならない。気分転換に飲み物買ってこよう。
勢いよく席を立ってフロアを後にする私の背中に京本と阿部くんのクスクスと笑う声が聞こえた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時