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77:お礼はいただいた ページ27

視線を上げれば、綺麗に刈り上げられた京本の襟足が視界に入る。


そういえばこんなところから京本のことみたことなんかなかったな、なんてぼんやりと考えていたら、マンションのすぐ目の前まで来ていた。





「京本、ここ、家」


スーツの裾を小さく引っ張ると京本が足を止める。




「あの、京本、送ってくれて、ありがとう」

「なんでそんな、ドギマギしてんの」

「いや、だって、」



だって、ただの同期だと思ってた相手からずっと好きだったとか、そんなこと言われたら変に意識するに決まってるじゃん。普通。




「あ、もしかして、俺が好きだって言ったから?」

「ぬぁ?!」

「なにその声」

「だって!京本が変なこと言うから!」

「…ふーん、そっか、ちょっとは意識してくれてんだ?」

「ちがっ、!違くないけど、違う!」

「なんだそれ」




変なの、なんて京本は愉快そうに笑い声をあげるけど、こっちは笑う余裕なんかありゃしない。





「まぁ、これからはもう、我慢しないから俺」



覚悟しといて、とでも言わんばかりに満面の笑みを浮かべる京本に思わず一歩後ろに下がる。

それに気付いた京本が二歩こちらに近づいてくるものだから、2人の距離はぐっと近づく。





京本がじっ、とこちらを見つめてきた、と思った次の瞬間だった。







京本の顔が近づいてきて、唇に何か温かいものが触れた。






それがキスだと気付くのに数秒かかる。





「なっ、!」

「送ってやったお礼、もらっといた」




京本はそう言うと「じゃあな」と手を振り、来た道を戻っていく。


どんどんと小さくなっていく京本の背中を呆然と見つめながら、私はそっとまだ小さな熱が残る唇に指を触れた。




.

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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時

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