72:喧騒が消えた街 ページ22
会もお開きになりみんなで店の外に出る。
集団のどこからか「2次会に行く人ー」なんてこの後の続きを募る声が響く。
「Aちゃんどーすんの？」
少し離れたところにいた深澤さんがこちらを見て首を傾げた。
どうしようかな、なんて深澤さんと同じように首を傾げて考えていたら急に後ろからぐいっと腕を引っ張られる。
え、と振り返るとその先には京本がいた。
「…え、なに」
京本が何も言わずに私の腕を引く。
深澤さんが私の名前を呼ぶけど、それに上手く応えることが出来なくてとりあえず手を振った。
私の声なんか聞こえていないのか、京本はそのままどんどんと街の中を歩いていくものだから、私はそれに従うしかない。
「ちょ、京本っ、…ねぇ、ねぇってば！」
京本の足がようやく止まる。
それと同時に掴まれていた手がパッと離された。
さっきまで強く感じていた熱が急に離れて少しだけ寂しさすら感じるのはなぜだろう。
「…なに、急に」
意味がわかんない、とこちらを向いた京本に視線をぶつける。
「…、…ろよ、」
「え、？」
「あぁやっていろんなやつにヘラヘラすんのやめろよって言ったの」
京本の視線が真っ直ぐにこちらに向かってくる。
その視線は射抜かれそうなほど鋭くて痛い。
「別にヘラヘラなんか、」
「深澤さんが彼氏候補に立候補してくれてヘラヘラ笑ってたじゃん」
「は？それはあの場だし、話の流れとかその場の空気とかあるでしょ」
それに。
「それに私が誰と付き合おうが何しようが京本には関係ないじゃん」
ずっと私のこと避けてたくせに、急にそんなこと言われても意味わかんないし。
そもそも京本はただの同期で、私の彼氏でも親でもなんでもないんだから、私が誰とどうなろうが関係ない話じゃん。
「…ある、」
「え？、」
「関係ある、」
京本は少しだけ弱々しい声で。
でも相変わらず視線はどこまでも真っ直ぐ力強くて。
「Aのこと、ずっとそばで見てるのは俺だろ」
京本がこちらを真っ直ぐに見る。
街の喧騒がうるさいはずなのに、電源オフになったのかってくらい急に何も聞こえなくなる。
その代わり、自分の鼓動がドクン、ドクン、とうるさく脈打つ音が耳の奥で響いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1099人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
