71:優良物件 ページ21
会も進むと、最初は部署ごとに分かれていた席もごちゃ混ぜになってくる。
私も大盛り上がりの部長の隣からそっと離れ、隣の部署にいる同期の奈緒のところへと移動する。
「最近、どうなの？」
「どう？とは」
「ほら、樹くん。仲良くやってる？」
結構付き合って長いでしょ、って向けられた悪気のない笑顔が心苦しい。
「…あー、別れた」
「は？！うそ？！」
奈緒のバカでかい声に賑やかだった場が一瞬静まり返り、こちらに視線が向く。
「すみませーんなんでもないでーす」なんて奈緒の言葉にまた視線が方々に散らばる。
「なんでよ？！てっきり結婚するもんだと思ってたのに」
「まぁ色々あったのよ、長くなるから言わないけど」
実を言うと樹と知り合った合コンには奈緒もいたのだ。
あのとき2次会に参加しなかった私たちが一緒にいて、まして付き合うことになるなんて思ってもみなかったらしく、付き合うことになったと報告したときは大層驚かれた。
「なーんの話してんの？」
さっきめちゃくちゃ注目浴びてたじゃん、なんてやってきたのは奈緒と同じ部署の深澤さんと岩本くんだった。
「別に楽しい話じゃ、「この子が結婚目前の彼氏と別れたって話を」
「ちょっと奈緒？！個人情報漏洩もいいとこなんですけど？！」
私の個人情報は守られもしないのか。
「まぁじか！ってことは今、フリーなの？Aちゃん」
「まぁそうですね」
「じゃあ俺、立候補しちゃおうかな」
岩本くんの隣の深澤さんがそう言ってぐいっと顔を近づけてくる。
「どう俺。意外と優良物件だと思うよー？」
かっこいいし、優しいし、夜中に会いに来てとか言われてもすーぐ行くし、なんて深澤さんが笑う。
「…たしかに、いいかも、」
たしかに深澤さんは優しいし、かっこいいし、面白いし、密かに女性社員の中にファンもいる。
でも。
「でも深澤さんチャラいからなぁ」
「おいコラ！チャラくねぇよ！ちょぉっと女の子のことが他の奴より好きなだけ！」
「ふっか、それがチャラいって言うんだよ」
隣の岩本さんが苦笑いしながら、落ち着けって深澤さんの肩を叩く。
ふと視線を感じて、その方向に目をやると、京本が何か言いたげな顔をしてこちらを見ていた。
でも私の視線に気付くと、すぐに視線は逸らされ、隣の人と話し始めた。
…なんなんだろ。
再び湧き上がってくるモヤモヤとした感情に少しだけ胃が痛くなった。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
