65:輝いてみえる ページ15
「それ売って、一緒に焼肉食いに行こ」
「…は、?」
「最後に美味いもん食って、そんで笑顔でおわりにしよ」
樹はそう言うと、ほら、って私の手を引いてソファから立ち上がらせる。
「うそ、ちょっと待って、」
「なんだよ」
「今から行くの?!」
「当たり前だろ。善は急げって言うし」
なんかついこの間もその言葉聞いた気がする。
樹に引かれ慌ててついていく。
何、この展開。
そう思うのだけど、少しだけ出会ったときの感覚を思い出して懐かしく思ってワクワクする自分もいた。
#
ブランド物買取のお店で鑑定してもらったら、想像以上の買取額を提示され、思わず顔を見合わせた。
良いやつだとは思ってたけどまさかここまでとは。
「…え、樹、やばい」
「俺、結構頑張ったのよ?」
樹は「こんな風になるなんて買ったときは思わなかったけど」なんて自虐的に笑った。
お金を受け取ると、今度は焼肉屋へ。
「なんかさ、すげぇ悪いことしてる気分にならねぇ?」
席に座って早々、樹が深刻そうな顔して言う。
「わかる。盗んだやつ売って豪遊するみたいな」
よく警察24時とか夕方のニュースとかで見るやつだ。
別に悪いことなんかしてないのに、あのブレスレットを売って得たお金ということもあってか、なんか若干落ち着かないというか。
「まぁ元は俺の金なんだけど」
「なんか巡り巡ってお金になって戻ってくるって変な感じだね」
「な」
そんなことを話しながら焼肉を焼いていく。
初めは互いに黙々と食べていたけど、次第にその空気に耐えられなくなる。
「…なぁ、もうこの空気やめねぇ?」
先にそう言ったのは樹だったけど、私も同じことを考えていた。
人は良い肉の前には無力だ、なんて。
「ねぇ、それ私が育ててた肉!」
「俺が目ぇつけてたやつだよ」
「うわ、ずる!」
「あーうめぇー」
そこからは付き合ってたときみたいに笑いあったり、文句言い合ったり。
樹と付き合ってたときは本当に楽しかったな、ってしみじみと感じた。
なんだかんだと小さな事で喧嘩はしたけど、でもいつも最終的には2人で笑い合っていた。
そんな日々は本当に幸せだったんだ、って今更気付く。
もう、取り戻すことが出来ないことがわかっているからこそ、輝いて見える気がした。
.
1099人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時