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62:意地でも ページ12

「…泣くなよ、そんな風にされたら、諦められなくなるだろうが、、」



樹の言葉にまた視界が滲む。





「それなら、最低だ、って。自分勝手だ、って。そうやって罵ってくれたほうがマシだわ」

「…ごめん、」



またひとつ、ぽつり、と涙がこぼれ落ちた。

スカートに歪な水玉模様を描く。
その歪さは、まるで今の私たちの関係みたいだ。





「…なんとなく、わかってたし、」

「え、?」

「もうやり直せねぇだろうなって…お前、気になるやついるだろ?」




この前のやつ、って樹がこちらに視線を向ける。
それが松村さんのことを指していることはすぐにわかった。




「…わかんないの、自分でも」

「なんだそれ」

「でも、もっと知りたいって思ってる自分もいる、」

「…お前、それを気になってるって言うんだよ、」



んなこともわかんねぇのかよ、って樹は若干呆れたような顔をする。



本当にそうなのだろうか。

ただ今、こういう状況だから、松村さんに優しくされて、少し傾きそうになってるだけなんじゃないだろうか。





「もう、俺じゃダメなんだな、Aの隣にいるの」

「じゅ、り」

「だぁから!泣くなっての、」



樹が手を伸ばし、私の頬に伝う涙を拭う。
少しだけ荒っぽいその仕草が、樹らしい。





「こんな結果になっちまったけど…今まで一緒にいてくれてありがとうな、」

「じゅり、」

「んな顔で見んなって。期待すんだろ、バカ」

「…ごめん、、」

「幸せになれよ、ちゃんと」



樹の顔が近づく。

真っ直ぐに向けられた樹の目には、涙でぐちゃぐちゃになった私が映る。





「なれるのかな、」


樹のことを結局、捨てることにした私にそんな資格はあるのだろうか。

樹を差し置いて幸せになんて、なっていいのだろうか。






「なれなかったら、まぁじで俺の損でしかねぇじゃん?」




樹が目を伏せた。
そして、再びこちらを見る。




「だから、意地でも幸せになれよ」




樹がそう言って笑った。

その笑顔は、とても苦しそうで悲しそうで。



でも私の背中を押そうと精一杯の思いが込められたものだった。



.

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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時

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