52:消去法 ページ2
「あのさ、なんで俺なの?」
「特に深い理由はないけど」
ただひとつ理由をあげるとしたら、一番何もなかったってことが理由かな。
「そこは何かしら理由見つけて言ってもらっていい?」
なんかやっつけ感がすごいんだけど、なんて阿部くんは困ったように笑いながらビールを飲んだ。
私もそれに合わせるようにビールを飲み込む。
ただなんとなく、真っ直ぐ家に帰りたくなかった。
家に帰ったら強制的に1人になって、いやでも樹とのことに向き合わなきゃいけなくなるから。
向き合わなきゃいけないのはわかってるけど、でもまだ真実に触れるのが怖かった。
いつもならこういうとき、京本を誘うところだけど、生憎避けられてるし。
松村さんを誘うのはなんだか申し訳ないし、慎太郎さんもちょっと違う。
そうやって消去法で考えた結果、見事選ばれたのが阿部くんってわけだ。
「なんかあったの?」
「んー…べつに、」
「そう?」
こてん、って首をかしげた阿部くんの仕草があざとくてなんか女としてちょっと負けた気分になる。
別に勝ち負けなんてないんだろうけど。
そう言えば前に京本に「阿部くんは、Aよりよっぽど女子力がある」って言われたっけ。そのときはスルーしたけど今考えたらすごい腹立つな。
「俺、口は堅い方だよ」
「うん?」
「あと、自分で言うのもアレだけど意外と聞き上手」
「えーっと、」
「言いづらいことなら無理にとは言わないけど。でも、なんか話したいことがあるんだったら、聞くことはできるよ」
阿部くんはそう言いながら、さっき頼んだサラダを食べた。
「ねぇ、阿部くん?」
「ん?」
「変な奴が変な独り言言ってるなって聞き流してくれる?」
「うん、いいよ」
阿部くんがゆっくりと頷く。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時