51:紙袋と私 ページ1
「…あのとき、もしかして、」
「ん?」
高地くんが優しくこちらを見る。
「2週間前くらいに樹が会いに来たことがあって、話がしたいって」
あのときの樹の姿が頭に浮かぶ。
この前、話があるって言ったのは、話を聞いてくれって言ったのは。
「でも、もう樹と話すことなんてないって、言って、私、逃げた」
樹はきっと今の話を私にするべく、私のところは来たのだろう。
本当は違ったんだって、だから、またやり直せないかって。
今更なんでまたやり直そうだなんて樹は言ったんだろうと思っていたけど、そう言うことなら合点もいく。
「…樹、後悔してたよ」
高地くんがポツリと呟く。
「お前のためにやったことだったのに、結局お前のこと傷つけて、失って。それなら他の方法があったんじゃないかって」
樹は優しいからさ、それが仇になっちゃったんだよな、なんてジェシーが悲しそうに呟く。
「Aはさ、なんも知らなかったから仕方ないけど。でも、樹も樹で苦しんでんだよ」
「こんなこと部外者の俺らが言ってどうこうなるわけじゃないけど、でも俺らは樹の友達だからさ」
2人はそう言うとまた一段と苦しそうな顔をした。
「そんでもって、Aの友達でもあるから」
だから、と高地くんが真っ直ぐこちらを見る。
「だから会ってちゃんと話がしたかった」
その言葉は真っ直ぐ私のところへやってきて、ぶつかった。
逃げないで最後に一度だけでもいいから樹の話を聞いてやってよ、ってそう背中を押された気がした。
#
2人と別れ、家に帰る。
電気を付ける気にすらならなくて、真っ暗な部屋の中、ソファに座り込む。
カーテンの隙間から入り込んだ街灯の光が、天井に薄らと光の線を描く。
どうしたらいいんだろう、とその線をゆっくりとなぞるように見上げた。
部屋の隅で樹からもらったブレスレットが入った紙袋が暗闇の中、ぼんやりと輪郭を浮かばせる。
ぐしゃぐしゃのそれは今の私の心みたいだ、なんて思いながら、私はソファにゆっくりと身を沈めた。
.
1099人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時