7:はじまり ページ7
「私、恋人がいたんです」
目の前の松村さんは、真剣な顔をして私の話に頷いた。
つまらない話になりますよ、と思いながら私は話を続ける。
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元彼・田中樹とは友達の紹介、という名の謂わば合コンで知り合った。
あまりそういう場が好きじゃない私は、欠員の穴埋めでその日たまたま参加していた。
盛り上がる面々を横目に端っこでひっそりと1人、シャンディーガフを飲む。
「楽しんでる?」
そう言って隣にやってきた田中くんは、そう言って私の顔を覗き込んだ。
笑ったときにできる目の横のシワが印象的な人だな、と思った。
「まぁ、」
「うそ、ぜってぇ早く帰りてぇって思ってんじゃん」
「…バレました?」
「Aちゃん?だっけ、こういうとこ苦手っしょ」
人数合わせで来たことを告げると田中くんは「やっぱりね」なんてまた笑った。
そして田中くんは一瞬何かを考えたあとで、顔をぐい、と近づけて来た。
「苦手ならさ、このあと抜け出しちゃおうぜ、俺と2人で」
騒がしいはずの店内。
なのに耳元で囁かれた言葉はやけに大きくて、やけにはっきりと聞こえた。
「…え、」
「決まり、な?」
向けられた笑顔に私は頷くことしかできなかった。
私が頷いたのを確認すると、田中くんは私の横を離れ合コンの集団に戻っていった。
ドキドキを隠すように飲み込んだシャンディーガフ。
喉で弾ける苦い泡が少しだけくすぐったい。
適当な盛り上がりで迎えた合コンの終わり。
それぞれが連絡際を交換したあとで、誰かが「カラオケでも行かない?」なんて言い出した。
「ごめん、私、これで帰る」
「わかった。ごめんね、今日付き合わせて」
「ううん、大丈夫」
「ありがとう、帰るの気をつけるんだよ?」
私をこの会に招いた女の子とそんな会話を交わす。
また誘ってね、なんて社交辞令もいいような言葉を適当に言って手を振る。
「俺、今日はカラオケパス」
「はぁ?樹が来なかったらつまんねーじゃん!」
「明日、早いのよ」
私の後ろで田中くんがそう言っているのが聞こえた。
なんとかして引き止めようとしている田中くんの友達とそれを適当に交わすような田中くんこやりとりが聞こえる。
そんなやりとりを聞きながら、私は手を振り騒がしい集団からそっと離れた。
まだ明るいネオンが灯る街並みの中をゆっくりと吹き抜ける生ぬるい空気が体にじっとりと纏わりついて気持ち悪かった。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時