6:損する話 ページ6
オーダーしたあと、またやってくるこのなんとも言えない空気。
そりゃそうか。
共通の話題もなけりゃ、なんの繋がりもない人間同士が突然、はいどうぞ、で話をするなんて無茶な話だ。
「えっと、俺、松村って言います」
「あ、私はAと言います」
どうも、と2人で頭を下げ合う。
顔を上げた松村さんと目が合う。
松村さんはよく見ると、やたらと整った顔をしていて、芸能人とか?なんて思ったけど、まさかこんなところにいるわけないか。
名前を名乗って、その後また流れる気まずい空気。
松村さん、自分から話がしたいとか言っといて、なんか全然話さないし。
どっちかっていうと話すのとか苦手そうなタイプにも見える。
お待たせしましたー、ってそんな気まずい空気を打ち消すようにやってきた店員さんの明るい声に少しだけ救われる。
ありがとう、陽キャの店員さん。
「とりあえず、乾杯でもします?」
自分で言ったけど、何言ってんの?って感じ。
松村さんも多分そう思ってることでしょうね。そんな感じの顔してる。
「「乾杯」」
何に対する乾杯なのかもわかんない乾杯をきごちなく交わすと、グラスに口をつける。
冷たいウーロン茶が喉を通って胃に向かって行くのがよくわかる。
「で、えっとAさん?」
「はい」
「あの話を聞いてもいいですか?」
「早速ですねぇ」
それ以外に話すことなんかないんだけども。
でも適当な世間話もなしに急にそこに斬り込まれるとちょっと気まずい。
まぁでもいっか。
見ず知らずの人間相手のほうが好き勝手話せるし。
「聞いて後悔しませんね?」
「しません」
「本当に?」
「本当に」
「本当に本当に本当に?」
「…そこまで言われるとちょっと自信ないですけど」
困ったように笑う松村さんにちょっとだけ悪いことしたな、なんて思ったり。
それにしてもそんな表情でさえカッコいいな、なんなんだこの人。
「まぁそれは冗談で。松村さんが聞いて損したって思う話をこれからしますね」
「なんですか、それ」
松村さんはそう言ってまた困ったように笑った。
私はそんな松村さんの姿を眺めながら、ウーロン茶に口をつけた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時