50:知らないよ、そんなの ページ50
高地くんの言った言葉がすぐには理解出来なかった。
考えても考えても、結局上手く答えに結びつかない。
それどころかどんどんと複雑に絡んで、その真実から遠ざかって行く気さえする。
「どういうこと、それ」
やっと出た私の声はやけに震えていた。
なんでこんなに震えるのか自分でも分からない。
「樹、騙されたんだよ」
「なにそれ、」
「相手の女、樹のことずっと狙ってたんだって。でも樹、Aがいるからってずっと断ってたんだよ」
高地くんが苦しそうに言う。
隣のジェシーが高地くんの肩に優しく手を置いた。
「あの女、樹が振り向いてくれないから、脅してきたんだよ」
「脅した?」
「彼女のこと壊してやるって」
ジェシーの眉間に皺が寄る。
「樹、それだけはやめてくれって言ったらしくて。そしたらその女、一回だけでいいから自分のこと抱いてくれって」
「樹、Aに危害がいかないようにって、お前を守るためにその女と寝たんだよ」
高地くんとジェシーの顔がどんどんと険しくなっていく。
「それでもう解決したと思ったんだよ。樹も『Aに隠すのは辛いけど、真実伝えたほうがもっと辛くなるだろ』って何度も自分に言い聞かせるように言ってた」
「なのに」
なのに。
そのあとに続く言葉は何となく想像できた。
なのに、相手の女の子は、それだけじゃ満足しなくて、妊娠したって言って樹を永遠に繋ぎ止めようとしたんだ。
「…ねぇ、なにそれ、そんなの、、知らない」
そんな女の子がいたこと、一言も言ってなかった。
私と一緒にいるときの樹はいつもどこか飄々としてて。「お前なぁ」って私のことをあの眉毛を下げて少し困った笑顔で見てたもん。
「知らないよ、そんなの、」
私の声がまたひとつ、大きく震えた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時