45:苦しくて痛い ページ45
その夜は結局上手く寝ることが出来ず、朝を迎えた。
朝を迎えても尚、胃の奥のほうが重くて気持ち悪かった。
「ねぇ、大丈夫?!」
出社してデスクにカバンを置いた瞬間、阿部くんがギョッとした顔でこちらを見る。
「おはよ、そんなヤバイ?」
「すげぇ死にそうな顔してる」
「それはヤバイね」
「ねぇ笑い事じゃないんだけど?!」
「阿部くん、大丈夫だから。昨日ちょっと寝れなかっただけ」
海外ドラマが面白くて途中でやめられなくてさー、なんて見え透いた嘘をつく。
阿部くんは何か言いたそうだったけど何かを察したのかそれ以上は何も言ってこない。
「なにかあったら言ってね?」
「うん、ありがと」
阿部くん優しー!好き!って茶化すように笑ったら、「ほんとさぁ」ってため息つかれた。
それからなんとか1日仕事をこなした。
ちゃんと仕事は出来ていたはず。
隣のデスクの京本がチラチラこちらを見てきたけど、何も文句は言われなかったからミスはなかったんだと思う。
それだけで精一杯だった。ほんとはそんなんじゃ社会人としてダメなんだろうけど。
その日も結局上手く眠れなかった。
ベッドに潜り込んでも、いつもは気にならない時計の音とか、冷蔵庫の低くて唸るような音が気になった。
ガタン、と何かの音がするたび、樹が来たんじゃないか、って心臓がバクバク音を立てた。
…なんで、好きだった人にこんなに怯えているんだろう。
「好きだったのに、な」
樹のことが好きだったのに。
目玉焼きに何をかけるとか、カレーは甘口か中辛か、とかそんな些細なことで言い合いになりながらも笑い合って、ずっと一緒にいると思ってたのに。
どこで間違ってしまったのかな。
あのとき、もっと樹に縋ることが出来たら、少しは違ったのだろうか。
でも、あそこで縋ってても、樹の浮気相手が今度は苦しむことになる。
まして新しい命を宿しているのに、その相手を踏み躙ってまで一緒にいて欲しいなんて、そんなの言えるわけない。
じゃぁ、どうしたら、よかったんだろう。
ぐるぐると巡り巡る思考にどんどん身体が縛り上げられて身動きが取れなくなっていく。
苦しい、痛い、
もがいたら、もがいた分だけ、キツく縛り上げられて。
糸がどんどんと絡んで、もう自分1人じゃ解けなくなっていく。
松村大丈夫ですか?
時折やっくる松村さんからのメッセージ。
それにも上手く返すことが出来ないままだった。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時