44:張り裂けそうだ ページ44
樹の視線を振り払うように駆け出す。
後ろで樹が私の名前を呼ぶ声が聞こえるが、そんなの知らない。
全力でマンションの階段を駆け登る。心臓が痛いけどそんなこと言ってられない。
やっと辿り着いた自分の部屋の前。
玄関のドアを開けると、すぐに鍵を閉め、その場にへたり、と座り込む。
ハァハァと大きく乱れる息を整えようとするのに上手くいかない。
心臓がバクバクして張り裂けそうだ。
別に樹から逃げる必要なんてなかったのかもしれない。
でも、あのとき。
樹に触れられるのが少し怖い、と思ってしまった。
少し前まで樹に触れられるのは当たり前で、それが怖いだなんて一度も思ったことなかったのに。
なのに、なんでだろう。
なんでさっきは怖いと思ってしまったのだろう。
別れたから?
違うけど、違わない。わかんない、わかんない。
やっと落ち着いてきた呼吸。
少しずつ吸えるようになってきた空気をゆっくり吸い込む。
ドアに預けた背中。
ドアの向こうで足音が聞こえる。
その足音はゆっくり、ゆっくりと進む。
そして、ドアの向こう側で止まった。
ピンポーン、
うちのインターホンが鳴る。
やっと静かになった心臓がまたドキン、と大きく跳ねる。
出るべきなのかどうなのか、迷っているともう一度ピンポーン、とインターホンが鳴る。
ゆっくりと暗闇の中に消えていくインターホンの音。
「…A、」
樹の声だ。
やっと収まった心臓がまたバクバクと大きく音を上げて動き始める。
「なぁ、」
何が言わなければと思うのに、言葉は喉の奥の方に詰まって出てこない。
そのかわり嫌な汗が首筋にゆっくりと伝う。
「…話させてくれよ、、お前に言いてぇことあんの、」
樹の声は少しずつ弱々しくなっていく。
その声をかき消してしまいそうなほどのこの心臓の鼓動が痛い。
「ごめん、、自分勝手だってわかってんの、」
そうだよ、自分勝手だよ。
そう文句を言ってやりたいのに、言葉はやっぱ出てこない。
「…また、来るわ」
答えずにいる私に樹は諦めたのだろう。
その言葉のあとで、足音が遠ざかっていくのが聞こえる。
背中に触れる玄関のドアがひんやりと冷たい。
顔を下に向けると、涙がポトン、と爪先に落ちた。
.
944人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時