42:謝らないで ページ42
松村さんと2人、並んで歩く。
手が触れそうで触れない距離がなんだかもどかしく思うのはなぜだろう。
松村さんに会うのは私の家に松村さんが来た日以来だった。
あの瞬間のことを思い出すと昨日のことのようにあのときの熱が蘇ってきて、なんとも言えぬ同時に恥ずかしさが湧き上がる。
隣を歩く松村さんをチラリ、と覗き見る。
松村さんの少し長めの髪が歩くたびにぴょこぴょこと揺れている。
「あの、ハズいんですけど」
「えっ」
「さっきからチラチラ俺のこと見てるでしょ。違う?」
うわ、バレてた。
横目でチラリ、とこちらを見た松村さんは小さく笑う。
「違く、ないです、ね」
「なんでカタコト?」
だって。
なんか上手く話せないだなんて、そんなの初めてキスした中学生じゃあるまいし言えるわけない。
「この前のこと、」
「え?」
「気にしてますよね、やっぱり、、その、キスした、こと、」
「…松村さんだってカタコト」
私の指摘に松村さんは、首の後ろに手を回して、ほんとですね、なんて困ったように笑う。
「…謝らなきゃって思って、何度も連絡しようと思ったんですけど、なんかなかなか送れなくて、」
謝らなきゃいけないことなんてない。
あのキスが嫌だったわけじゃないし、、むしろ、嬉しかった自分がいるから。
…少しびっくりはしたけど。
「…謝らないでください、」
謝られたらそれが一瞬の気の迷いだったみたいに思えて苦しくなるから。
それなら何も言わずにいてくれたほうがマシだ。
「Aさん、ズルい…」
松村さんが歩みを止め、私の指先にゆっくりと指先を絡める。
「勘違いしちゃうって言ったでしょう?謝らないでなんて言われたら、またキスしてもいいのかな、って思っちゃいますよ、」
意外と単純な男だって言ったでしょ、ってそう言う松村さんの目はご主人様を見る子犬みたい。
私はその目に弱いんだ、と気づく。
そしてもっと、松村さんに触れたい、と思った。
私の家まであと少し。
今、思ってることを伝えていいものか、どうなのか迷っていると、それを切り裂くかのようににひとつの声が聞こえた。
「A、、?」
その声は、私の名前を呼んでいた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時