41:束縛クルクルパーマ ページ41
「お前、何してんの」
髪に触れていた慎太郎さんの温かい手が引き剥がされるのと同時に聞き慣れた声がした。
その声の先を辿るように振り返るとそこには不機嫌そうな顔をした松村さんが立っていた。
「えー、慎ちゃんお悩み相談室開催してただけだよ」
ねぇ?ってこちらに笑顔を向ける慎太郎さん。
その横には怖い顔した松村さん。
「んな、怖い顔すんなよ、北斗」
「そうですよ、ただ話聞いてもらってただけで」
「ふーん?じゃあこの手もその慎ちゃんお悩み相談室の一貫?」
「えーヤキモチ?ほっくん」
「うっせぇわ。っていうかほっくんって言うな」
松村さんが慎太郎さんの手を掴む力を強めたらしく、慎太郎さんが「痛え!」って大きな声をあげる。
っていうか、ほっくんってちょっと可愛い。
呼んでみたいけど呼んだら怒られるかな。そんな風に呼ぶなんて恥ずかしすぎて出来そうにないけど。
まぁそもそもそんな風に呼べる間柄でもなんでもないんだけど。
「慎太郎、仕事終わったんだったらさっさと帰れよ」
「可愛い子ちゃんと飲んで仕事の疲れを癒させてよ」
「お前、彼女が家で待ってんじゃねぇの?」
「そぉだけどぉー、でも俺だってAちゃんとたまには飲みたいー」
「ダメ、早く帰れ」
「くそ、この束縛クルクルパーマ野郎!」
小学生みたいな悪口を言う慎太郎さんに松村さんは表情ひとつ変えない。
隣で聞いてる私は笑いを堪えるのに必死なんだけどな?
っていうかこの2人のやり取りのテンポが面白い。
「束縛クルクルパーマが怖いから、今日は慎ちゃんお悩み相談室これでお開きね」
「またいつでも聞くから!」って慎太郎さんはそう言うとひらり、と手を振って店を後にした。
「ごめんなさい、邪魔して」
「あ、いえ、そんな。でも慎太郎さん良かったのかな」
「アイツのことはいいですよ、どうでも」
慎太郎さんのことになると急に辛辣になる松村さんの言葉がやけに面白くて、小さく笑うと「今、笑った?」なんて顔を覗き込まれる。
「もう、帰ります?」
「あ、そうですね」
「じゃあ送っていきます」
当たり前のようにそう言う松村さんにドキリ、とする。
私に向けられるその優しさは、どういう意味を持つのだろうか。
知りたいけど、知りたくない。
会計を済ませ、松村さんの背中を追う。
振り向いた松村さんが「そんな焦んなくても大丈夫ですよ、置いてったりしないから」って優しく笑った。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時