5:ご新規2名様 ページ5
駅前に戻り、その男の人が選んだ居酒屋に2人で入る。
「いらっしゃいませーってあれ、北斗だ。珍しいー」
出迎えたちょっとガタイのいい店員さんが隣に立つ男の人を見て声を上げる。
「2人なんだけど空いてる?」
「うちが空いてないことあった?」
「ねぇな、いっつもガラガラだもん」
「それはひどくない?!大将、北斗が店の悪口言ってるー!」
どうやら知り合いらしいその店員さんと北斗と呼ばれる男の人は軽快なやり取りをしている。
それにしてもこの店員さん、なんかもういかにも陽キャって感じでちょっとこわい。
「…って、北斗、今2人って言った?」
私の存在に気づいた店員さんが、後ろにいた私をひょいと覗き込んだ。
そして目が合うと、まん丸の目をもっとまん丸に見開いて「わぁ!」って笑顔になる。
「北斗の彼女?」
「あ、いえ「ちげぇわ。ちょっとした知り合い」
「なぁんだつまんねぇの」
「つまんなくていいんだわ。っていうか早く席案内しろ、慎太郎」
「へいへーいご新規様2名様ごあんなーい」
店員さんの明るい声に連れられ、私たちは店内を進む。
彼の明るい声と反比例するように私たちの間には絶妙になんとも言えない空気が流れる。
「すいません、うるさくて」
「いえ、お知り合いですか?」
「大学時代からの腐れ縁で」
後ろ頭を掻きながらその男の人は困ったように笑った。
「えーっと、」
「とりあえず飲み物だけでも頼みましょう。話はそれからで」
そう切り出したのは私のほう。
なんだか手持ち無沙汰で落ち着かないから、とりあえず何か時間を凌ぐ方法を入手したいだけなんだけど。
見ず知らずの人間の前でお酒を飲めるほど開き直れもしないので、とりあえずウーロン茶を頼むと、目の前の男の人も「同じものを」と言った。
慎太郎と呼ばれる店員さんは私たちを交互に見ると「ごゆっくり」となんだか意味深な笑みを浮かべて去っていった。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時