40:伝わる体温 ページ40
仕事終わりの慎太郎さんはビールジョッキ片手にやってきて私の隣に座った。
ビールを一気に注ぎ込むと「あーーうめーー」なんてまるでCMみたいなリアクション。
いい飲みっぷりでこっちまで清々しくなる。
「さぁ本日のお悩みは?この慎ちゃんが見事ズバッと解決!」
「そういうノリでいく感じです?」
「ですですぅ」
なーんて冗談よ、真面目に聞きますって慎太郎さんがピンと背筋を伸ばす。
なんでもどうぞ、って向けられた視線はどこまでも優しい。
「実は、同僚に避けられてるみたいで」
この前一緒に来たの覚えてます?って聞けば「あぁあの最強顔面の?」って言われた。
最強顔面って何、って突っ込みたいけどなんかそこに突っ込んだら負けな気がして黙っておいた。
「避けられてる?」
「ずっと仲が良くて。ケンカしたりしょうもないこと言い合ったりする仲なんですけど、ここ2週間くらい仕事以外の話はまるでしてくれなくなって」
今までこんなことなかったから、なんかすごく違和感というか、苦しいというか。
同期としていろんなこと一緒に頑張ってきたから、急に突き放されたみたいになって心細いというか。
「ふーん、、何かきっかけみたいなものは?」
「うーん…特に何かあったわけじゃないと思うんだけど」
京本に避けられるようになったきっかけを記憶の中で辿る。
…そういえば、あの日な気がする。
あの日、一緒に帰った日。
「あ、」
「思い当たる節あった?」
「…松村さんの話したあとからな気がする」
「北斗の?」
うん、と頷くと慎太郎さんは顎に手を当てうーん、と頭を捻った。
「うーん、わかんないけど。多分それは、Aちゃんが何かしたってわけじゃなくて、同僚さん自身の問題って感じがする」
「京本の問題?」
「ん、まぁ俺の想像だけどね」
多分当たってるけど、なんて言って慎太郎さんは意味深に笑う。
「それは、解決出来るのかなぁ」
「さぁねぇ」
え、結局解決策なしじゃん。
慎ちゃんお悩み相談室、好評なんじゃなかったの?
「悩み過ぎなくても大丈夫だよ。きっとすぐ理由がわかるよ」
慎太郎さんの手が伸びて私の髪をゆっくりと撫でた。
その大きな手は、温かくて、落ち着く。
慎太郎さんの手からゆっくりと伝わる体温が優しくて、少しだけ泣きそうになった。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時