38:甘い蜜 ページ38
「正直なとこって、、別に元彼とのことはもう終わったことだからいいし。それに、」
「それに?」
「松村さんことはよくわかんない」
「…松村?」
「この前話した人」
ほら、声掛けられてウーロン茶だけ飲んだって言ったやつ、って言ったら京本が眉間に皺を寄せた。
「Aがのこのこついてったやつね」
「だから、その言い方!」
のこのこついていったって表現なんか誤解が生じる気がする。
別に何かあったわけじゃないし。
何かあったわけじゃ、
「お前、そいつのこと気になってんの、もしかして」
京本の綺麗な顔が一段と歪む。
なんで、そんな顔するんだろう。
「…わかんない」
わかんないって言うのが正直なところだ。
昨日キスをして、それで見事に眠れなくて上の空になったけど、それが恋心なのかどうかは自分でもよくわからなかった。
ただ動揺しただけなんだと思う。
だって、あんなタイミングでキスするなんて思ってなかった。
樹とのことがあって、傷ついてるところに松村さんと偶然知り合って、甘い蜜に見えてるだけなんだと思う。
素直にその蜜に飛び込んで溺れられるど私はバカじゃない。
「でも、」
「でも?」
「もっと知りたいって思ってるかもしれない、」
松村さんのことをもっと知りたい。
一緒の時間を過ごして、どんなことが好きで何が嫌いで、どんな風に笑う人なのか、ってそんなことを知りたいと思う。
「…なんて、何言ってんだろ私」
忘れて、って慌てて笑うと、京本は何か言いたげな視線をこちらに向けた。
でも何も言わず、その代わり「あっそ」って興味なさそうな言葉だけ投げられた。
そして、また1人で歩き始める。
ちょっと待ってよ、って慌てて追いかける私を横目でチラリ、と見た京本の目は、少しだけ苦しそうだった。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時